嫌悪される「構造的な仕組み」

物理的な距離だけではなく、心理的にも金銭的にも「実家が遠い」、そのコスパの悪さが、「帰省ブルー」につながる、と、昨年の記事で私は述べた。家族や親族、それに、「地元のつながり」がタイパの悪さも感じさせる。いくつものうっとうしさが、複雑にからまりあっているから、「帰省スルー」=帰省を避けようとする人が増える。

ただ、ここまで帰省が嫌悪される背景には、もっと根深い問題があるのではないか。めんどくさい、うっとうしい、損をする……それだけではない、より構造的な仕組みが、帰省を蛇蝎だかつのごとく嫌わせているのではないか。

とすると、東京をはじめとする都市部に住んでいる人たちは、地方に帰る=行くことを、嫌っているのだろうか。

「帰省」とは、地方出身者で都市部(東京圏)に住む人たちが、生まれ育った家や地域に戻ることを指す。それを嫌悪するということは、地方から東京に出てきた人たちは、「地方暮らし」も避けようとしている。そう考えるほうが素直だろう。

けれども、「東京圏在住者の約半数が、地方圏での暮らしに関心あり」との調査結果をまとめたのが、内閣官房で「地方創生」を担当する「まち・ひと・しごと創生本部」である。より具体的に言えば、東京圏在住者のなかでも、「地方暮らし」については、「地方圏出身者の方が東京圏出身者よりも関心が高い」、それも、より若い層の関心が高い、という。

富士山と新幹線
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東京に住んでいながら、「地方暮らし」志向が強い人たち

数字で見れば、地方出身で東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む人の61.7%が「地方暮らし」の意向を持っている。具体的に移住の時期や場所・仕事等を決めて計画している「計画層」に占める20代の割合は33.3%、30代は32.3%であり、上の世代を大きく上回る。

40代以上のほうが、老後は地方で、と考えそうに見えるものの、結果は逆である。若い年代のほうが、東京に住んでいながら、「地方暮らし」志向が強い。

また、総務省が2009年に始めた「地域おこし協力隊」は、2024年3月末現在で、全国1149の自治体に合計7200人がいる。都市から主に地方の過疎地に移住して、最長で3年間、地域協力活動を行いながら、定住・定着を図るものである

「地域おこし協力隊」は、必ずしも若い世代に限られないものの、「地方暮らし」が、見える化されることによって、単なる憧れではなく、実感のこもった未来に変わっているのではないか。

「地方暮らし」志向や、「地域おこし協力隊」の15年にわたる継続は、そうした実情をあらわしているのではないか。

さらにそこに、「コロナ禍」という要因が加わる。