NHKが「出演OK」を出す意味
そして2つ目の「スポンサーに対する『禊』が済んだ」は、最後まで新規出演を解禁しなかったNHKが「出演をOKした」ことで「禊」が済んだと判断するスポンサーが出てきて、今後は徐々にCM出演なども増えてくることが考えられるということだ。スポンサーのなかには「使いたいが世間の目が……」と思っていた会社もあるに違いない。
テレビ局のなかで最も出演に関する審査が厳しいとされる公共放送が出演を解禁したことは、ある種の「免罪符」となる。NHKに対してスタート社の交渉が強硬であったことが事実ならば、スタート社は今後、旧ジャニーズ事務所のような力を蓄えてゆく可能性があるだろう。実際に、今年の3月時点に比べて12月のCM出演はKing & Prince、Travis Japanともに2社増、SixTONESは1社増となっている。
事務所と所属タレントの関係が変化
3つ目の「事務所内のタレント行政が難しくなった」ということだが、これは“物言う”タレントが増えたと言い換えられる。スタート社は一丸ではない。会社の方針と一個人のタレントの考え方は必ずしも同じではないからだ。
スタート社では、従来の日本の芸能事務所に多かった「マネジメント契約」と併用して「エージェント契約」を導入している。「エージェント契約」においては、タレントは個人事業主として事務所からは独立していて、タレントが自分で管理業務をおこなう。
事務所は仕事を見つけてきたり、タレントに仕事を斡旋したりするが、仕事先と契約するのはタレント本人であり、ギャラもタレントに直接支払われる。そのため、当然「マネジメント契約」をしているタレントより「エージェント契約」をしているタレントの方が事務所に対しての発言力が強くなる。
スタート社の所属タレントは、設立時の2024年4月には28組295人だった。これだけの人数で、なかには“物言う”タレントもいるとなると、総意を取りまとめるのはなかなか至難の業だ。
存在意義を問われる「紅白」
以上に述べてきたような、「なぜ紅白歌合戦にスタート社所属のタレントが出演しなかったのか」という問いの答えに考えを及ばせることもなく、ただ単に「Nスぺを放送したからスタート社を怒らせてしまった」と結論づけるのはあまりにも単眼的であり、テレビの力を過信した「驕り」や「傲慢」と言わざるを得ない。
テレビには、もはやそんな「影響力」はない。そう自覚するべきだ。都合がいいときにだけ視聴率が獲れるからといって重用していたのに、問題を起こすとスポンサーの出方を伺いながら恐る恐る出演を見合わせ、時間が経つと「出演OK」を発表する。そんなテレビ局の無責任な姿勢は、「何様か」と非難されても仕方がない。
そう考えると、今回NHKがスタート社に出演依頼を断られてよかったのだ。いまやテレビ局にはタレント事務所に引導を引き渡すような生殺与奪の権はない。そう自覚するよいきっかけになったのではないだろうか。いや、そうでなければならない。
中途半端な状態での起用は、視聴者のためにもならない。視聴者のリテラシー能力を損なうことになるからだ。私はいっそのこと国民投票で紅白歌合戦の出演者を決めたらいいのではないか、そんなふうに思っている。