出演するメリットがない
NHKは各部署のセクショナリズムが非常に強い組織である。今回のNスぺを制作したのは報道局の社会番組部である。音楽やドラマなどの番組を作っている制作局とは異なる。両者の人事交流はないに等しく、2022年までは採用も別々におこなっていた。
したがって、報道局のクリエイターが制作局の番組に忖度することはない。つまり、今回のNスペのスタッフが「紅白歌合戦」への影響を考えながら番組を作ることはあり得ないということだ。そういった仕組みはスタート社もよくわかっているので、報道局が作った番組の内容に関して制作局に腹を立てるということは考えづらい。
以上のことから、Nスぺの影響はまったく「ゼロ」ではないだろうが、「なぜ紅白歌合戦にスタート社所属のタレントが出演しなかったのか」という問いの答えになるほどのことではない。
そこで私が挙げるのが、「地上波にもはや『うま味』はない」という理由だ。スタート社にとって今さら紅白歌合戦に出るメリットがないと判断したと見ている。NHKのギャラは民放に比べると格安だ。紅白歌合戦はリハーサルから本番まで長い時間を拘束される。それでもメリットがあったのは、紅白歌合戦が「視聴率」と「ステイタス」を保持していたからである。
問題を過去のものとしようとするNHKの姿勢
だが、視聴率は下がる一方でそれに伴って紅白歌合戦の価値も失われてゆく。それならば、「カウントダウンコンサート」やほかのイベントをやった方がいい。配信を使った展開の方が話題性もあり、視聴者やファンは喜ぶだろう。世界へ向けた発信もできる。そう考えるのは当然だ。紅白歌合戦、ひいては地上波テレビが「見限られた」ということだ。
Nスぺの影響は少ないと述べたが、相手(事務所側)も人間である。一方では「自己批判」という仮面をかぶって総括をするように見せかけながらその実、問題を過去のものとしようとするNHKの姿勢。紅白歌合戦の視聴率を上げたいがために、「もう出演してもいいよ」と起用を解禁するNHKのやり方。それらに反発を感じた関係者は少なくないはずだ。
週刊誌報道によると、出演するアーティストについてNHKは2枠を主張し、スタート社は4枠を主張したが、最終的に決裂し、不出場となったという。もしそれが本当なら、NHKはスタート社を過小評価していることになる。「何様だ」と思われても不思議はないだろう。
今回のことをきっかけに、スタート社のような芸能事務所とテレビ局の関係も、以前のような単なる「癒着」や「忖度」とは違ったものになると私は推察している。互いのメリットやデメリットを考え抜いた、ある種“ドライで”“ビジネスライクな”関係になってゆくのではないだろうか。