平凡な主婦が横領事件を……映画『紙の月』のストーリー
映画の梨花(宮沢りえ)は、誰もが認める美人。大企業のサラリーマン・正文(田辺誠一)と結婚し、郊外に家を持つ妻で、子どもはいないが、パートで勤めだした銀行でも営業の能力を認められて渉外係の契約社員となり、公私ともに隙のない、しっかり者の女性として見られていた。銀行では、いわゆる「外回り」担当で、地主などの金持ちの家を自転車で回っては、預金や金融商品などの手配をするのが梨花の役目だ。美しく上品で丁寧な対応をする梨花は、年配の預金者たちから信頼を得ていた。
しかし、大口の預金を預けてくれている顧客・平林(石橋蓮司)の孫である大学生・光太(池松壮亮)と出会い、かなり年下の彼と体の関係を結んでから、人生の歯車が思いもしなかった方向に回り出す。彼が苦学生であり、大学の学費を祖父の平林も貸してくれないと聞いて、梨花は平林から預かった200万円を銀行の定期預金口座には入れず、光太に渡してしまう。そして、彼の前では「お金をいくらでも使える恵まれた奥様」を装うために、高い化粧品を買い、ブランドものの服を着るようになる。
一度、横領をして足を踏み外すと、歯止めが効かなくなるのか、梨花は顧客のひとりである老婦人・たまえ(中原ひとみ)が認知症になったと知るや、たまえの記憶があやふやなのをいいことに、その口座から300万円をまるっと自分の銀行口座に入れてしまう。さらに、その口座から200万円引き出してきたのに本人には10万円しか渡さず190万円は着服するなど、次々に罪を重ねていく。
10歳以上下の大学生との性愛に溺れていくヒロイン
自宅で当時最新のワープロとプリンターを駆使し、偽の定期預金証書を作り(懐かしのプリントゴッコで年賀状ライクに認め印を捏造!)、金を預けてくれた顧客には、「たしかに銀行で預かりましたよ」という体でしれっとそれを渡す。だんだん梨花から迷いがなくなり、犯行は大胆になり、横領がエスカレートしていく様が、恐ろしい。
不正に入手した金で、休日には高級ホテルのスイートに光太と連泊。ホテルのお会計が150万円超えても、浪費をやめない。挙げ句の果てには、彼にマンションを与えて、完全に愛人として“囲う”ように……。もちろん、若い光太はそれだけ甘やかされた結果、スポイルされていく。
原作小説では、40歳近くになり夫とはセックスレスだった梨花が、若い男性との性愛に溺れていく心理がはっきりと書かれている。