口腔内から心臓や脳の病気に発展する

親知らずを放置することには、時として命に関わる重大な健康リスクがあります。

親知らずが斜めや埋まった状態であると、周囲の歯茎に圧力をかけ、細菌感染が生じることがあります。この状態を「智歯周囲炎ちししゅういえん」と呼び、親知らずの周りの歯茎が炎症を起こし、痛みや腫れが生じることがあります。

智歯周囲炎を放置すると、感染が深い部分に広がり、顎の骨や他の組織にも影響を及ぼす(頬部蜂窩織炎や縦隔炎)可能性があります。

私がいた救急の現場では、菌による炎症と口腔内から菌が入り込むことにより、気づかないうちに心臓内に菌の塊ができて入院し、心臓外科で手術となった例もありました。菌の塊が脳の血管に流れ込み脳梗塞などを引き起こす可能性が高い症例でした。

生命を脅かす「敗血症」を引き起こすリスク

また感染が全身に広がると、生命を脅かす「敗血症」といった重篤な状況を引き起こすことがあります。敗血症は、体が感染に対抗しようとする過程で、全身の臓器に深刻なダメージを与え、臓器機能不全を引き起こし命に関わる危険が生じることになります。

極端な例と思われるかもしれませんが、これくらいの感染ならと思っていても、あっという間に重症になり、命の危険に繋がる場合を見てきました。

われわれが提供しているマウスピース歯科矯正「hanaravi(ハナラビ)」の患者の中にも、歯を移動するスペースを確保するためや奥歯を押すことで歯並びに影響を与えている場合には、歯科矯正を実施するまえに、親知らずを抜かないと治療が始められないケースも度々あります。

それ以外にも、いろいろな場面で抜歯をするのか? それとも抜歯しないのか? の判断を迫られる場面があります。それらはどうやって決めるべきでしょうか。