ランニングはおすすめできない
医師だった私の祖父が「健康のために歩くのはよいことだが、走るのはよくない」とよく話していました。空前のランニングブームを経て、今も街中で多くのランナーを見かけます。健康のために走り始め、マラソン大会に出場する方もいらっしゃいますが、私はあまり勧めません。
その理由は正しい走り方を知らない人が走ると、ひざに衝撃が加わり、ひざ関節を痛めてしまうことがあるからです。もちろんランニングの専門家について正しい走り方を学んだうえでの挑戦ならよいのですが、そこまでできる人はなかなかいないと思います。
以前、オリンピアンの有森裕子さんが走る映像を拝見したことがあります。有森さんの体の動きを観察しようと、テレビ画面の下半分を隠してみたところ、上半身の軸にまったくブレがなく、腕を振っていなければ静止しているように見えるほどでした。
「体の軸が動かないイコール骨盤が動いていない」なので、それだけひざへの衝撃が少ないといえます。また超一流のランナーの太ももにはしっかり筋肉がついているので、ひざを痛めることもありません。
しかし普通の人の走りは体の軸が安定していないので、足を踏み出すたびに骨盤が揺れてしまい、ひざへの衝撃が大きくなるのです。
寿命を縮める可能性
そしてマラソンと心臓の関係にも不安要素があります。マラソンは心拍数を上げるので、心臓にもよくないのです。心拍数とは心臓が打つ回数のことですが、「心臓が一生の間に打つ回数」は、哺乳動物ではほぼ同じです。
しかし打つ速さは動物によって異なり、ハツカネズミが1分間に600回打つのに対し、象は1分間に30回と少ないのです。この差は寿命に反映され、ハツカネズミの寿命が2~3年なのに対して、象は80~100年も生きるので、それぞれの寿命と一生に打つ心拍数は見事な相関関係にあるといえます。
これが人間にも当てはまるとすれば、心拍数を上げるマラソンは寿命を縮めてしまう可能性があるのです。ひざや心臓に与える影響を考えると、少なくとも若い頃に走る訓練をしたことがない人が、50代、60代になって、いきなりフルマラソンを目指すのは、医師の立場からするとひざにも心臓にもあまり好ましくないといわざるを得ないのです。
フルマラソンをゴールした際に得られる達成感は何物にも代えがたいものでしょう。しかしひざ関節のことを考えたら、ウォーキングを楽しんでいただきたいと思うのです。