“自分”に危機が迫らないと、反戦機運にはつながらない
「最近の気分」を尋ねる調査の結果にも、大きな変化が起きた。それまで7〜8割を維持していた「良い気分」や「普通の気分」と答えた人の割合が、突然52%まで落ち込んだ。
反対に「緊張」「恐怖」「憂鬱」といったネガティブな感情を抱く人が、それまでの2〜3割から47%へと急増した。調査結果は、22年9月から年末にかけて社会が暗い気持ちに包まれたことをはっきりと示している。
一方で私が驚き、同時にがっかりしたのは、22年2月の開戦時には、ロシアでネガティブな感情を抱く人がほとんど増えなかったという現実だ。
あの時私は、自分の体の一部が失われるような沈痛な感覚に襲われた。なのに、そうした気持ちはロシアの人たちにほとんど共有されていなかったとは……。正直言って、もっとロシアにいる人々に動揺して欲しかったと思う。
部分動員令が引き起こした社会の混乱に懲りたプーチン政権は、その後「これ以上は動員の必要はない」と繰り返して火消しに走った。その効果もあって、良い気分や普通の気分を感じている人の割合は急速に回復した。
その後も戦争は続き、ウクライナの人たちだけでなく、ロシアの若者たちも毎日命を落としている。しかし残念なことに、自分や近しい人たちに危機が迫らなければ、あまり気にしないということを、世論の動きは示している。
プーチン氏が再び大規模な強制動員にでも踏み出さない限り、ロシア社会で反戦の機運が高まることには期待できないのかもしれない。