死亡事故により必要以上に危険視されてしまった

フッ素が日本で危険視されだすのは、1980年代にある歯医者がフッ化水素酸を患者の歯に塗布して、死亡させた事件があったことが大きいと思われます。

フッ化水素酸はフッ素化合物の一種で、入れ歯や歯のかぶせ物を加工するときなどに使います。ただし、これは毒物でもあり、直接人間に使うことはありません。事件を起こした歯医者はフッ化ナトリウムとフッ化水素酸を間違え、誤ってフッ化水素酸を患者の歯に塗ってしまったのです。

この不幸な出来事により、歯磨き粉のフッ素濃度の世界標準が1500ppmになっても、日本では1000ppm時代が長く続いたのです。確かにフッ化水素酸(フッ酸)は危険ですが、むし歯予防に使うフッ化ナトリウムは、まったく害がありません。そもそも日本人がよく口にするお茶や海藻には、多くのフッ素が含まれています。ビールにもフッ素が含まれています。

これらは体に害があるどころか、お茶も海藻も毎日摂ることで、むしろ健康が促進されます。さらにいえば、水道水にあえてフッ素を入れている国もあります。アイルランドやアメリカの一部などです。これらの国はフッ素がむし歯予防に役立つことから、誰でもその恩恵を受けられるよう、水道水に入れているのです。

あるいはスイスで売られている塩にも、フッ素入りのものがあります。これもまた、むし歯予防のためのようです。

子どもであってもフッ素濃度が高いものを使うべき

お子さんの歯を守るために、フッ素入りの歯みがき粉を使っているご家庭も多いことでしょう。ただ、そのフッ素濃度、把握していますか?

小さな女の子の歯みがき
写真=iStock.com/loops7
※写真はイメージです
前田一義『歯を磨いてもむし歯は防げない』(青春新書インテリジェンス)
前田一義『歯を磨いてもむし歯は防げない』(青春新書インテリジェンス)

WHO(世界保健機関)は、むし歯予防のためにフッ素濃度を「1000~1500ppm」と推奨しています。とくに1000ppm未満のフッ素濃度ではむし歯予防効果が弱いことがわかっています。

しかし日本で販売している子ども用の歯みがき粉は、基本的に1000ppm以下。今まで日本で推奨されてきた、子ども用歯みがき粉のフッ素濃度は「500ppm」と低かったため、むし歯予防効果がとても低いことがわかりました。

国際的なガイドラインに基づき、2023年から日本でも子ども用歯みがき粉の推奨濃度が変更になりました。日本小児歯科学会など4学会は、フッ素濃度1000ppm以上の歯みがき粉の使用を推奨しています。