東京都全体で必要な医療費は「年間8000億円」

制度がらみの硬い話が続くが、もう少しお付き合いいただきたい。

厚生労働省は国保の財政を安定させるために、2018年4月から運営主体を市区町村から都道府県に移した。立正大学の芝田教授がこう説明する。

「以前は市区町村が医療費の推計や保険料の決定、徴収を行っていましたが、現在は都道府県が推計を行い、市町村に『納付金』を割り当てています。①都道府県が市町村に対して納付金の金額を掲示し、②市町村は納付金がまかなえる保険料率を決め、③加入者から保険料を徴収し、④市町村は都道府県に納付金を納める、という流れです。納付金は100%完納が義務付けられ、減額は認められません」

国保料の金額決定の流れ
出所=『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)

2024年度の東京都と、私の居住地東京23区内のA区の関係から、どのような流れで納付金や保険料が決まるのか、捉えてみよう。

①2024年度・東京都全体で1年間の医療費が約1兆511億円という予想総額
内訳は、医療分(医療給付費)8096億円、後期高齢者支援分1759億円(後期高齢者医療制度に支援する分)、介護分(40歳~64歳のみの介護保険料)656億円である

②1兆511億円のうち、国や都の公費から3572億円、前期高齢者交付金(被用者保険から国保へ支援する分)2318億円を除き、残りの4621億円を東京都内の62の区市町村で負担することになった

③62の区市町村の負担額は一律ではなく、自治体の財政力(住民の所得)、医療費なども加味され、振り分けられる

④筆者居住地のA区は、③で決まった東京都から請求された納付金に加えて、独自の健診事業なども加え、24年度は「約200億円が必要」と算出した

⑤区市町村向けの公費を除き、A区は今年度必要な200億円のうち171億円を国保料で徴収することになった

⑥A区の保険料率=24年度の個々の保険料が決定(毎年6月頃)

自治体による保険料の決め方についての詳細は第2章で解説する。

限度額を引き上げると、その負担は加入者全員に…

さて都道府県化して規模を大きくすれば財政基盤が安定するという目的だったはずだが、加入者にとっては保険料の負担が増している現状がある。上限額も引き上げられている。上限額が上がるのは高額所得者がより多く負担するのだからいいじゃないか、と思ったら大間違い。前出の長友氏も「限度額を引き上げると、その負担は加入者全員に及びます」という。

「他の被用者保険の保険料は、月収を基礎にした『標準報酬月額』をもとに保険料が決まります。しかし、国保料は収入や資産に応じて課す『応能割』(所得割、資産割)と、収入などに関係なく一律に課す『応益割』(均等割と平等割)があり、国の標準割合は応能割50:応益割50に設定されています。そのため、限度額を1万円引き上げると、応益割で5000円分、応能割で5000円分引き上げることになります。限度額が上がるということは、低所得者を含む保険料も上がるのです」

国保料の上限引き上げは3年連続だ。2022年度は3万円、23年度は2万円、24年度も2万円引き上げられ、現行の上限額は106万円だ。年々国保料が高くなるわけである。