自然災害には、どのように備えればいいのか。科学者のバーツラフ・シュミル氏は「災害による被害は大きく報道されるので、リスクが過大評価されることがある。しかし、正確なリスクを理解するためには、印象ではなく数値に基づいて考えるべきだ」という――。

※本稿は、バーツラフ・シュミル『世界の本当の仕組み』(草思社)の一部を再編集したものです。

地震
写真=iStock.com/SteveCollender
※写真はイメージです

自然災害の「正確なリスク」は計算できる

普通に暮らしているのと比べて、繰り返し起こる致命的な自然災害はどれほどリスクがあるのか? そして、エクストリーム・スポーツは? あまり頻繁にではないにせよ、1種類か2種類の壊滅的な出来事にだけ何度も見舞われる国もある。たとえば、イギリスは洪水と極端な強風の害を受ける。一方、アメリカは毎年、多くの竜巻と広範な洪水、頻繁なハリケーン(2000年以降、1年当たり2つ弱のハリケーンが上陸している)や豪雪に対処しなければならず、太平洋岸の州は、大地震と、場合によっては津波にも襲われるリスクが常にある(※60)

毎年、竜巻で人が亡くなり、住宅が壊される。これに関しては過去の詳細な統計があるので、正確な曝露リスクを計算することができる。1984~2017年に、破壊的な竜巻に襲われやすい21の州(ノースダコタ州、テキサス州、ジョージア州、ミシガン州と、この4州に囲まれた州で、人口の合計は約1億2000万人)では1994人の死者が出ており、そのうち約80パーセントは、3~8月の6カ月間に亡くなっている(※61)

なぜ「災害が頻発する地域」に住み続けるのか

これは曝露1時間当たり約3×10-9(0.000000003)人の死者という計算になり、普通に暮らしているときのリスクよりも3桁小さい。アメリカの、竜巻に襲われやすい州の住民で、この割合を知っている人はほとんどいないが、繰り返し自然災害に見舞われる他の地域の人と同様、彼らも竜巻に命を奪われる確率が十分小さいことを認識しており、だから、そのような地域に暮らし続けるリスクは依然として許容できるのだ。

強力な竜巻による破壊の爪痕の画像は広く報道されるので、大気の状態がそこまで荒々しくない地域に住む視聴者は、被災地の人がなぜ同じ場所に家を再建すると言うのか、不思議に思う。だが、そのような判断は不合理でもなければ、向こう見ずなまでにリスクが大きいわけでもない。そして、その判断があるからこそ、テキサス州からサウスダコタ州まで延びる「竜巻街道(トルネード・アレー)」に、何百万、何千万もの人が住み続けるのだ。