「曝露リスク」は世界で共通している

注目すべきことに、世界各地でよく出合う他の自然災害に対する曝露リスクを計算すると、やはりみな10-9という同じ桁か、それよりもなお低い割合になる。そしてまた、致命的な現象へのそうした曝露率を考えると、いつ起こってもおかしくない地震のリスクと多くの国が折り合いをつけている理由もわかってくる。

国土のどこで被害が出てもおかしくない島国の日本では、1945~2020年に、約3万3000人が地震で亡くなった。その半数以上が、2011年3月11日に東日本を襲った地震と津波の犠牲者だ(死者1万5899人、行方不明者2529人(※62))。だが、1945年の7100万人から2020年には1億2700万人へと人口が増えたことを踏まえると、これは曝露1時間当たり約5×10-10(0.0000000005)人の死者という計算になり、日本の全死亡率よりも4桁小さい。0.0001を1に加えても、人生のリスクの全体的評価を変えるような決定的要因には、とうていなりえないことは明らかだ。

ハリケーンの死亡リスクは「落雷程度」だが…

ほとんどの地域では、洪水と地震の曝露リスクはおおむね1×10-10から5×10-10の間に収まり、1960年以降のアメリカのハリケーン(テキサス州からメイン州までの沿岸諸州で約5000万人に影響を与え、平均で1年当たり約50人の命を奪う)のリスクは、約8×10-11(※63)

ハリケーンの余波
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これは著しく低い割合であり、雷に打たれて死ぬという、ほとんどの人が並外れて低い自然リスクと考えるだろうものに非常に近いか、それより小さくさえある。近年、落雷で亡くなる人は、アメリカでは毎年30人に満たない。そして、落雷の危険は、落雷の90パーセントが発生する4~9月の6カ月間に、屋外にいる1日当たり平均4時間にしかないと仮定すると、そのリスクは1×10-10となり、曝露期間を10カ月まで拡げれば、7×10-11(0.00000000007)まで下がる(※64)

今や、アメリカのハリケーンはせいぜい落雷程度の死亡リスクしかもたらさないという事実からは、人工衛星や高度な公的警告システムや避難措置によって、どれほど死者数が減ったかがわかる。同時に、新たな懸念を抱く理由もある。1年当たりの自然災害の頻度とその経済的コストの両方が、世界中で高まり続けているのだ。かなりの自信を持ってそう言うことができる。なぜなら、地震やハリケーン、洪水、火災の予想不能の発生に損益がかかっている世界の大手再保険会社がみな、自然災害の傾向を何十年にもわたって注意深く監視しているからだ。