商売や経営は成功するようにできている

幸之助は、「経営はきわめてやさしいともいえる。というのは、それは本来成功するようにできていると考えられるからである」「商売なり経営というものは、もともと成功するようになっている」と断言する。

つまり、雨が降れば傘をさすごとく、当然のことを当然として行なう、基本中の基本を徹底する、ひいては原理原則に従うことに忠実であれば、経営はおのずと成功するというのだ。

夜景とビジネスマンの影、成長を示す矢印
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幸之助が経営者として「自然の理法」を特に強調したのは、高度経済成長期のことである。好況期は順調に見えた企業が、「昭和40年不況」に直面し、経営が大きく傾くことも珍しくなかった。

銀行借り入れに依存して債務が膨らんだり、まだ一企業体として小さいのにアメリカの大企業に倣って多角化したり、過当競争による無理な価格引き下げで利益を確保できなかったりする企業が目立ったからだ。

一方、松下電器の業績も一時的には大きく悪化したが、幸之助によれば、資金に余裕を持つ「ダム経営」や、重電分野に手を出さず弱電(家電)専業の方針を貫くなど、無理なことをせず、経営を維持できたという。「自然の理法」からはずれた経営は長続きしないことを戒めたのだ。

次々と新たな開発や投資をおこなっていく必要がある

ただ、幸之助が実践した「自然の理法」に対する順応の仕方が、時代や場所を超えて普遍的に適用されるかといえば、必ずしもそうではない。業種や企業の規模によっても異なるはずだ。

幸之助はそもそも、宇宙の万物は常に変化流転するとみなし、生成発展は「自然の理法」であると考えていた。順応の具体的方法は、長期的には変化しないほうがおかしいのだ。

「成長、発展のテンポというものには、その時々で違いはあろうけれども、この人間の共同生活は限りなく生成発展していくものだということになれば、それに応じた物資なりサービスなりの供給も時とともに増加させていくことが求められてくる。そうでなくては生成発展にならない。だから企業経営としても、原則としては次々と新たな開発、新たな投資を行なっていくことが必要になってくるわけである」