政治には「どうしても決めねばならぬこと」がある

しかし、政治には「逃げてはいけないこと」「どうしても決めなければならないこと」がある。外交・安全保障から災害対応、感染症への対応など、政治が緊急に厳しい選択を迫られる場面は、政権に入ってしまえば山ほど押し寄せてくるからだ。

印象に残っているのは、2011年の東京電力福島第一原発事故で民主党の菅直人政権が直面した「事故対応にあたる東電社員を、荒れ狂う原発から撤退させるか否か」。国家の存亡にかかわる究極の選択の局面であり、「撤退する」「撤退を拒む」のどちらを選択しても、厳しい批判を受けることは免れなかった。

だからと言って何も決めないことは許されない。リスクを取って判断し、責任を負わなければいけないのだ。それが政治である。

首相指名選挙という比較的簡単な政治判断さえもまともにできないのに、もっと厳しい局面が訪れた時、彼らは人ごとのように立ち往生して、何も判断しないのだろうか。そんな政党が今後、国民の生命と暮らしを守ることができるだろうか。国民は彼らに全幅の信頼を置くことができるのだろうか。

無効票は事実上の「ステルス石破支持」

ここまで書いていきなり前言を翻すようだが、実は国民民主党の「無効票戦術」は、政治的選択を「していない」とは、必ずしも言い切れない。事実上の「石破氏支持」である可能性が高いのだ。

首相指名選挙の決選投票は、過半数の得票を必要としない。「多数を得た者が(首相に)指名された者となる」のだ。ということは、多くの無効票が発生して有効票の総数が減れば、比較第1党たる自民党の党首に有利になりがちだ。

令和6年10月1日午後、衆参両院にて首相指名投票が行われ、石破茂議員が、伊藤博文初代内閣総理大臣から数えて第102代目の内閣総理大臣として指名された
令和6年10月1日午後、衆参両院にて首相指名投票が行われ、石破茂議員が、伊藤博文初代内閣総理大臣から数えて第102代目の内閣総理大臣として指名された(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

今回の衆院選で、連立を組む自民、公明両党の議席数の合計は215。一方、立憲をはじめ自公以外の全政党の合計(250)から国民民主党の議席(28)を差し引くと、議席数は222。その差はわずか7議席しかない。

222議席のなかには、裏金問題などで自民党から公認を得られず、無所属で戦い当選した議員の議席も含まれている。すでに、このような無所属議員6人が自民党の会派に入るとの見通しも出ており、与野党の差は詰まりつつある。自民党の反省のなさもここに極まれりだが、それはさておき、ここで国民民主党が玉木氏に票を投じて「無効票」となれば、石破氏の当選可能性は格段に上がる。

つまり「決選投票で玉木氏の名を書く」という国民民主党の方針は、実のところ「ステルス石破支持」なのだ。同党がそれを理解していないはずがない。