「売り上げが落ちたのなら、掃除をしなさい」

こうした苦労を経て、強い自立心が培われ、全くのゼロから東証一部へ上場するほどの一大チェーンをつくり上げました。「経営が趣味」と公言する宗次氏は、ゴルフや飲み会にも一切顔を出さず、ひたすら本業に身をささげてきたというストイックな経営姿勢が多くの人々から尊敬されています。

宗次氏によると、「売り上げが落ちたのなら、掃除をしなさい」といって、オーナーさんたちを鼓舞していたとのことです。

要は、自分の経営姿勢をどう示すかが重要であり、掃除でも、笑顔でも、感謝の言葉でもいいので、経営者の真心をきちんと伝えれば、必ず売り上げは回復すると発言しています。だからこそ、「よそ見している暇なんてない」とのことです。

経営には心が大事であることを示しています。そのうえで、安易に値下げをしたり、おまけをつけるような経営を諫めています。私の解釈ではきちんと心を込めて経営して、お客様が喜んで対価を払うようにしなさいと指摘しているように思います。

さて、ここで掃除という話がありますが、どうやら掃除には経営を良くする効果があるようです。

というのも私が聞いた話ですが、あるマンションオーナーさんが毎日そのマンションの入り口を掃除していると、入り口がきれいになったことで、新しいテナントさんが入るほか、テナントさんからのニーズを聞き出すことができてそれに合わせて改修などをした結果、人気マンションになったとのことです。またある建設会社の人に話を聞いたところ、現場が綺麗なところは作り上げる建築物もかなり出来が良いとのことです。

「値下げをするのではなく、掃除」というのは、奥深い真理かもしれません。

年間1000億食べられるインスタントラーメン

「やってみなはれ」という言葉を生み出したサントリーも、大阪に縁があります。

関西経済同友会で代表幹事を務め、その後も大阪商工会議所会頭を務めている鳥井信吾とりいしんご氏はサントリーホールディングス代表取締役副会長です。関西への地域貢献にも熱心な会社として有名です。

また、「ジムビーム」を持つ米ビームの買収で、スピリッツ(蒸留酒)世界10位から3位へと飛躍しました。ビーム買収に投じた資金は実に160億ドル(当時のレートで約1兆6500億円)とまさに金融史に残る巨額買収でした。

世界で最も売れているバーボンウイスキー「ジムビーム」のほか「メーカーズマーク」「ラフロイグ」などのブランドを手に入れ、社名をビームサントリーに改めています。

この合併を機にリージェントという新商品を開発、これはサントリーHDが2014年5月に買収した米蒸留酒大手、ビーム(現ビームサントリー)との共同開発品です。

それまでもジンやウオッカの開発で協力してきましたが、ウイスキーは原酒を樽で十分に熟成する必要があり、日米で製法が異なります。技術の融合が難しいとされた分野で合作品を仕上げたことは、ビームとの統合作業が進んでいると各方面で受け取られました。

NHKのドラマでも有名になった日清食品も、大阪にルーツがある会社です。日清食品の創業者である安藤百福あんどうももふくさんはカップヌードルを開発して、世界的な食品にしました。

石川智久『大阪 人づくりの逆襲』(青春出版社)
石川智久『大阪 人づくりの逆襲』(青春出版社)

雑談ですが、1年間で全世界で食べられるインスタントラーメンは1000億食といわれ、地球上に住む全員が1人13食以上食べたと試算できます。

また、インスタントラーメン発祥の日本では、国内最大の発明品を決める選挙で、特急列車やノートパソコン、カラオケを破り、インスタントラーメンが何度も選ばれています。

かつて米国の刑務所では盛んに取引される商品といえば「たばこ」でしたが、いまは「インスタントラーメン」であるそうです。関西が世界を変えた象徴といってよいでしょう。

回転寿司のスシローも大阪発祥の会社です。スシローといえば、ドバイ万博に出店して、世界に日本の回転すしを宣伝して知名度をあげました。機械化を徹底することで、極力人手を介する部分を減らした結果、清潔な空間で寿司を提供することに成功しています。

コロナ禍の際には、こうした清潔な商品提供が評価されて、多くの消費者がスシローにつめかけることとなりました。機械化が進んでいますので、人手不足への対応という観点からも注目されている企業です。

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