文部科学省が元五輪選手やパラリンピック選手を教員として登用する取り組みを始める。元ラグビー日本代表で神戸親和大学教授の平尾剛さんは「教育の基礎もないまま元アスリートを現場に投入すると、運動嫌いの子供たちを増やすばかりか、他の教員の負担にもなりかねない」という――。
五輪選手を「特例」で教員にしていいのか
そんなことをすれば教育現場は混乱するだろう。私がそう直観したのは、文部科学省が2024年9月13日に発表したとある通知に触れて、である。
文科省は今後、五輪やパラリンピックなどに出場した経験を持つ者を、以前からある「特別免許状」の仕組みを活用して積極的に教員に登用するという。トップアスリートが有する専門知識や経験が、児童生徒や他の教員にプラスの効果をもたらすことを期待しての取り組みである。
つまり、全国の小中学校に元オリンピアンが体育教員として常駐することになるかもしれないのだ。
朝日新聞によれば、「特別免許状」とは、高度な専門性を持つ人に教科を限定して与える免許で、現在社会問題となっている教員不足の解消や教育現場の多様性を確保するための方策である。
文科省は近年この制度の活用を促しており、2022年度は計500件の授与があった。教員の定数とは別に学校に配置し、担当教員と協力して保健体育の指導をしたり、高校で競技能力の高い生徒への指導や部活動を担当したりする例などを想定しているという。
体育は「健やかなからだを育む」のが目的
筆者は、この方針は「運動嫌い」の児童生徒を増やしてしまうのではないかと危惧している。
部活動の指導に限定するのであれば、この意図はかろうじて理解できる。競技力向上に励む意欲の高い部員が、引退後まもない元トップアスリートから専門スキルを学ぶ貴重な機会となりうるかもしれないからだ。
だが、体育となればどうか。スポーツ全般を教材とし、競技力の向上よりも健やかなからだを育むことが目的の体育教員が、果たして務まるのだろうか。