「お母さんは獣になってしまったのか」手を噛まれた娘がショックを受ける一方で…認知症の母に父がかけた“想像力がありすぎる”驚きの一言(信友 直子/ライフスタイル出版) 『あの世でも仲良う暮らそうや 104歳になる父がくれた人生のヒント』より #1

映画監督の信友直子さんは、認知症になった母・文子さんと、母を献身的に介護する高齢の父・良則さんの暮らしをカメラに収めた。そうして制作したドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は異例の大ヒットを記録。夫婦は突如として有名人になった。

ここでは、11月に104歳になる良則さんの日々の様子を、直子さんが娘の視点から綴った『あの世でも仲良う暮らそうや 104歳になる父がくれた人生のヒント』から一部を抜粋して紹介。文子さんに良則さんがかけた、「どうしてそんなことが言えるんだろう?」と驚いてしまうような言葉とは……。(全3回の1回目/続きを読む

信友良則さんと文子さん 『あの世でも仲良う暮らそうや 104歳になる父がくれた人生のヒント』より

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暴言や暴力には、母なりの理由がある

今まで常識的でやさしかった人が、認知症になると突然、ビックリするような暴言を吐いたり、暴力をふるったりする……。家族にとって一番辛いのはこれです。母にもこの症状が出て、そのたびに私も「お母さん、何で……?」とやりきれない思いをしました。

でもそのうちわかってきました。母の暴言や暴力には、母なりの理由があるのだと。母はむやみやたらと暴れるわけではなく、不穏になるのには必ず、介護するこちら側に何かしら原因があるのです。

認知症の人は介護者の鏡だとよく言われます。こちらがニコニコしていると母も安心して機嫌がいい。でもこちらがイラついていると母は「自分のせいだろうか」と怯えたり、責任を感じて泣き出したり、反対に居直って「私をバカにしとる!」と逆ギレしたりするのです。

それまでの母は、家族の面倒をみることが生き甲斐で、家事能力にはかなりの自信を持っていました。なのに、今まで簡単にできていたことができなくなるのですから、その恐怖と絶望たるや相当だったと思います。 

ここで母のレゾンデートル(存在意義)が揺らぐわけです。家族の面倒をみられなくなった自分は、この家にいていいのだろうか? いや、自分はもう面倒をみられないどころか、逆に家族に面倒をかけているじゃないか。ここにいても家族の迷惑になるだけじゃないのか?

そんな感情がいつも頭の中でグルグル渦巻いているから、たとえばデイサービスに行かせようとすると暴れ出すのです。

「私がここにおったら邪魔なんね? 私を厄介払いしたいんじゃろ!」

と大声でわめき出し、そこらへんの物を手あたり次第に投げつける……。