その日の夕食でのこと。さいたま市の和田龍一さん(仮名・41歳)は、小学6年生の長男がどことなく元気がないことに気づいた。妻にそれとなく問うと、「もらえなかったらしいの」と小声が返ってきた。そう、この日は2月14日、バレンタインデー。お気に入りの女の子がいたかどうかは知らないが、どうやら長男はチョコレートを1つももらえなかったことで少し気落ちしていたのだ。スポーツマンで成績も悪くない、朗らかなタイプの長男がなぜチョコレートをゲットできなかったのだろうか、と和田さんは考えた。
「ご子息がモテない理由はお父さんにあります。父親の責任は重大です」。こう即断するのは夫婦・家庭問題に詳しい東京家族ラボ主宰の池内ひろ美氏だ。
そんな! と和田さんは思わず絶句した。和田さんは休日に出歩くときも身なりはきちんとしているし、もちろん近所でトラブルなど起こしたこともない、だから自分のことで長男が友達から後ろ指を指されるような恥ずかしい思いをするわけがない、と確信を持っている。
「いえ、そういうことじゃなくて、子供は夫婦の会話や態度を鏡のように映す存在。例えば奥さんから誕生日に『おめでとう』と言われプレゼントをもらったときに、どんな反応をしていますか。奥さんが喜ぶような言葉や態度で感謝を表現できているでしょうか。素っ気ない態度で感謝の気持ちをごまかして、きちんと伝えていないと、子供はそれを感じ取り、男の子は特に父親をまねて極端な形で表してしまいやすいのです」
つまり日ごろから夫婦間で『ありがとう』の会話がないと、それがわが子にも伝播(でんぱ)して、友達の心が理解できない感受性の鈍い子供となる。その結果、当然のことながら感謝の表現ができなくなるというのだ。
仮にいただき物が欲しいものでなくても大人なら一応は儀礼的に対応するだろう。だが子供は社会性が未熟なため、露骨に嫌な顔をしたり、無愛想な態度をとったり、喜びの気持ちを伝えられなかったりする。これでは相手も嬉しくない、不愉快である、幸せな気分になれない。つまりモテない。チョコレートは届かなくなってしまう。
「『ありがとう』や『ごめんね』が夫婦の日常会話できちんとできているかが問われます。夫婦間での感情表現の豊かな家庭の子は喜ぶのが上手で、かわいげのある子に育ちます。だから人の輪も広がります。お父さんは子供の前で、ちょっと気恥ずかしくなるくらいオーバーアクションで気持ちを伝えたほうがいいのです。『黙っててもわかるだろ』ではダメ。言葉と態度が大事。何なら妻をハグしてもいい」
「沈黙の美徳」や「沈黙は金なり」は遠い遠い古き日本のお話。気持ちを伝えられないと、これからのグローバルな舞台でも、非モテ男として孤立しかねない。
最後に母親にもアドバイスを。
「夫にどんどん声をかけてください、夫に声をかけた数だけ、息子さんは友達にモテるようになりますよ」