人類は未知の領域に足を踏み入れた

本書では、保育園と幼稚園から始めて、小学校中学校高校と、成育課程に分けてスマホが育児・教育の世界に浸透してきた例をまとめています。ここで伝える数々の事例も含めれば、わずか数年で子育ての方法や環境に大きな変化が生じているのは明らかです。

スマホが日本で大きく売り出された2008年以来16年が経ち、スマホ・ネイティブも高校生ですから、ちょうどよい時期だとも思いました。

取材の過程で、京都大学の明和政子教授に話を伺う機会があったのですが、

「デジタルの時代に生きる子どもたちの成育環境は、ホモサピエンスのそれではなくなっています」

とおっしゃっていて、この言葉が僕には本当に印象的でした。

人間関係と自然との触れ合いのなかで育ってきた子供たちが、デジタルのなかでのそれになる。いわば、人類にとって未知の領域に足を踏み入れたことになります。そこで育つ子どもは一体どのようになるのか。

実際に視力の低下、運動能力の低下、外遊び時間の減少など、統計としても明らかになっていることがたくさんあります。逆に言えば、統計として出てこないけど、保育園や学校では周知の事実となっている新しい現象もあるでしょう。成育環境がホモサピエンスのそれでなくなったのだとしたら当たり前のことです。

こうした子供たちが大人になって社会に出てくるのは、何十年先ではなく、もう数年先なのです。良いか悪いかではなく、その変化を知りたいと思って本書の取材をはじめました。

親や教師が「スマホ育児」に不安になるのは当たり前

スマホやアプリは現代人にとって必要不可欠なものです。私も毎日スマホやアプリを使っていて、それを否定する気は全くありません。ただ、教育する側の親や教師が、扱い方や技術では子どもにはかなわない上に、自分たちが育った環境とは全く違うので、自身の過去の経験を活かせません。大人のほうがどう対応していいかわからなくなって困っている、というのが、これまでとの一番大きな違いだと思います。

それが、ここ数年でスピードもアップしていますよね。1年単位どころか月単位でも、どんどん新しい製品やソフト、アプリが出てきます。もう、それについていくのはプロでも精一杯、普通の人たちはどうしていいかわからないでしょう。

それが子どものことになると、教えるほうだってさらにわからないのに、目の前の子どもに何かしら教えなくちゃいけません。不安になるのも当たり前だと思います。簡単に正解は出せませんが、現実としてどうなっているかをルポする、報告したい、と思ったのが今回の本の目的となりました。