『虎に翼』にも通ずるセリフ

娘との間に距離が空いた幸男は、彼女が腹の底でなにを思っているのか、対話を試みる。『虎に翼』でも膝を突き合わせて話し合う家族会議がたびたび開催されるが、本作における家族の対話形式は、フリースタイルラップバトル。最初は幸男と娘がお互いに本音をぶつけあっていたが、バトルを眺めていた女性ラッパーが「なんか全部恵まれてる人の戯言って感じ」と参戦し、最終的には娘の同級生も交えて、生理についての大激論が始まるのだ。

「生理の経験はないけど苦しみを理解しようと努力する人」「その“寄り添っています”感に辟易する人」「生理や貧困にやり場のない怒りを抱えている人」「いっそのこと子宮を取ってしまいたい人」あらゆる主張が飛び交うラップバトルは、どんどん話が膨らみ、収拾がつかなくなる。そこで、耐えきれなくなった幸男の部下(三山凌輝)が「みんなで考えていくしかねえんすけど、今日ちょっと全部は、一気にはちょっと……」と仲裁に入るのだが、彼のセリフはまさに『虎に翼』へと通ずるものを感じないだろうか。

『虎に翼』がつなぐもの

つまりは「みんなで考えつづけるしかない」ということだ。寅子が生まれた時代から100年ちょっとが経つ今もなお、解決策が見つからない問題は山積みだ。テレビドラマなのだから、気持ちよくまとめてほしいと思ったこともある。だが、現状ではままならない問題をエンターテイメントで綺麗に昇華してしまうことこそが、吉田恵里香が懸念しつづけた「透明化」に他ならない。

テレビドラマも映画も、そして朝ドラも、すべての作品は“積み重ね”だ。朝ドラヒロインたちがバトンを繋いできたように、寅子も次にバトンを渡す。あのとき『虎に翼』があったからこそ、ここまでやれたと思う作品がいつか必ず生まれるだろう。2024年の朝ドラとして、『虎に翼』の存在を改めて記憶に残したい。

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