『虎に翼』であえて描かれた“欠点”とは…弁護士→裁判官になった伊藤沙莉「寅子」の“無自覚さ”が示したもの《まもなく最終回》(明日菜子)

女性の権利向上や社会進出を求める「フェミニズム」を真正面から扱った『虎に翼』(NHK総合)は、これまでさまざまなヒロインの人生を通して、社会に「はて?」を問うてきたNHK朝ドラにおける、一つの集大成だ。だからといって、女性を優遇する物語ではない。高等試験に合格し弁護士になった寅子が「困っている方を救いつづけます。男女関係なく!」と高らかに宣言したように、男性たちの生きづらさも含め、あらゆる個人の生き方に対して目を向ける作品になっていた。

第1話で「私にはこれからしたいことを見つけたり、そのしたいことで一番を目指す権利だってある」と熱弁していた寅子(伊藤沙莉)は法律と出会う。女性の社会的地位が現在よりもずっと低かった時代に、女性法曹のパイオニアとして、最前線で道を切り開いてきたヒロインの物語が、いよいよ最終回を迎えようとしている。

伊藤沙莉演じる主人公・寅子(NHK『虎に翼』公式Xより)

彼女のモデルは、女性で初めて弁護士・判事・裁判所所長を務めた三淵嘉子。脚本は『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(通称:チェリまほ)』(テレビ東京系)や『恋せぬふたり』(NHK総合)などを手がけた吉田恵里香だ。

現代まで地続きの課題を描いてきた

 もともと朝ドラの主な視聴者は60歳以上が約5割を占める*とされているが、『虎に翼』は昨今の朝ドラの中でも、視聴者の感想がSNS上で活発に発信されていたように感じる。幅広い年代の視聴者に、「フェミニズム」や「LGBTQ(性的少数者)」「夫婦別姓問題」など、現代まで地続きの課題を据えたエピソードを届けた功績は大きい。

*NHK放送文化研究所、朝ドラ視聴者調査2018

さらに、朝ドラではなかなか描かれなかった「女性の生理」や、ハ・ヨンス演じる崔香淑(チェ・ヒャンスク)などを通して「朝鮮人差別」についても切り込んだ。終盤は実際に三淵嘉子が担当した「原爆裁判」や世間を震撼させた「栃木実父殺害事件」を取り上げている。これだけ重みのあるテーマを朝ドラで扱えたのは、半年間、作り手からのパスを受け取った視聴者への信頼もあるだろう。