Q 『プロフェッショナルサラリーマン』には、何かの分野において部署で一番の存在になることの重要性が説かれています。私にもこの部署では自分が一番と自負している分野があり、周囲もある程度認めてくれています。ところが直属の上司が、その仕事を私ではなく、上司と相性のいいほかの社員に振ってしまいます。「私にやらせてください」と言い出すのも波風が立つ気がして憚られます。仕事を任せてもらえば、私のほうが高いパフォーマンスを出す自信があるのですが、思い切って上司に進言したほうがいいでしょうか?(建設会社、男性、29歳、入社6年目)


A 本当にあなたの言うように、上司が部下との相性で仕事の配分を決めているのだとしたら、これはもう上司の人間性の問題です。

本来であれば、上司が仕事を任せるときの判断基準は、部下の強みが発揮でき、それが組織全体のパフォーマンスに繋がるかどうかであるべきです。個人的な好き嫌いの感情を交えるなどもってのほか。

自分とウマが合う・合わないという理由で仕事を割り振っているとしたら、マネジャーとしては最悪なことです。あなたは自分が将来そんな上司にならないよう、反面教師にしてほしいと思います。

ただ、部署で一番のほうが上司から仕事の割り振りを受けやすいというのは確かですが、それは絶対条件ではありません。それに自分が「部署で一番」だというのは思い込みである可能性もゼロではありませんので、「そう思っているのは、自分だけではないか?」と省みることも必要かもしれません。客観的に見て自分よりももっとそれを得意な人がいたら、やはりそちらに任せるのが組織というものです。上司は組織の全体最適で配分を決めるのがセオリーですから。

もちろん現実はそうではないかもしれません。上司の目は節穴で、実はあなたのほうがその同僚より適性があるかもしれない。まさしく上司の私情で仕事が割り振られているのかもしれない。

しかし大事なのは真相を追及することではありません。どうすれば自分が実力を発揮できるかです。とりあえず、任されている今の仕事でより大きな成果を出そうと考えていたほうが、心の持ち方として健全でいられるのではないでしょうか。

もうひとつ気をつけるべき点は、部下であるあなたの普段の様子に余裕がないのではないか、という点です。上司が「この仕事を誰に任せるか?」ということを頭に思い浮かべた時には、もしかしたらあなたのことも候補として考えていたかもしれません。

ところが、いざ「A君に任せるか? B君に任せるか?」という比較の段階になった時に、意外に決め手となっているのは、部下に現状、どのくらいの余裕があるか、ということです。

余裕があるかどうかは、「上司から見てどう見えているか?」ということであり、実際の業務量とは必ずしも比例しないところがミソです。だからこそ、部下は水鳥のように水面下でバタバタと足を動かしていても水面では涼しげにしておくことが必要なのです。

しかし、やりたい仕事をあきらめる必要はありません。近い将来、自分もその仕事を任せてもらえる方法があります。それは目の前の仕事で結果を出すことです。

回り道のように思えるかもしれませんが、いま与えられている仕事で認められれば、必ずチャンスは来ます。いま任されている仕事はあなたに全面的な裁量があるのですから、そこで上司の期待に完璧に応えるようにしてみる。するとどういうことが起きるかというと、どんな仕事をしたいか、上司が尋ねてくれるようになります。

最初は「いいから、これ、やりなさい」と一方的だったのが、

「おまえ、次、どんなことやりたい?」

「次はAとBのどっちがいい?」

というように、やりたい仕事を選ばせてもらえるようになってくる。

これこそ、上司から認められたというシグナルです。そこで、

「実は僕の得意分野はこんなところにあると思うので、次はこういうこともやってみたいと思っています」

と言えば、すんなり、

「いいね。じゃ、やりなよ」

という話になるのは間違いありません。

このステップを経ることなく、いきなり、

「僕のほうが彼よりうまくできるのに、彼にばかり仕事を振るのは、私情を交えていませんか」

などと言うのは上司の心証を悪くするだけです。波風を立てなくても、自分の希望が通る日はやってきます。

今すぐ、その得意分野で担当にならないと、自分が終わってしまうわけではありません。必ず時は流れます。自分が得意なことをさらに研磨しつつ、もしくはライバルがいない別の得意分野を探しつつ、チャンスの到来を待つのも得策かもしれません。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)