試合前の投球練習でもデータを見ていた

たとえば“スライダーの変化量が普通だから、もっとキレをよくしよう”と思うのはいいことだが、大事なのはその前提として、何で自分のスライダーが打たれるのか、ということをもっと深掘りしなければならない。

左投手で左打者をスライダーで打ち取れないというケース。そういう課題を持った投手の多くは、その前にまっすぐでファウルが取れていない。スライダーの変化量云々の前に、そういうことも含めて考えなければいけない。

ことトラッキングに関して言えば、データは感覚をより研ぎ澄ませるためのものだ。自分の感覚とデータが絡み合って投手のパフォーマンスは上がってくるのだ。

ダルビッシュや大谷翔平は、練習だけでなく試合前の投球練習でもデータを見ていた。感覚と違う数字が出たら、どこが違うんだろうと考えて感覚を塗り替える。

普段から数字を見ているから、いつもの投球とこれだけ変化量が違ったら、どうメカニクスを修正すればいいかも判断できる。もしくは今日のコンディションからくる球質の差異に応じて、配球の組み立てを変えるという選択肢もある。彼らはそれができるレベルにあるのだ。

ダルビッシュはWBCの間、コンディションがいいとは言えなかった。だからこそ、そういう修正に取り組んでいたのだ。

大谷がバットにつけていた「ある機器」

星川はバンテリンドームのブルペンで大谷翔平から、明日の打撃練習でも「トラックマン」のデータ記録をするよう依頼された。

NPBでは打者で“「トラックマン」のデータを録ってください”と言う人はそんなにいない。WBCの選手では初めてだった。それに「ブラスト」というバットのグリップに装着してスイングの軌道のデータを録る機器も着けていた。

星川は“お、着けてる”とびっくりした。「トラックマン」のような弾道測定器も「ブラスト」も、ほぼ全球団が持っているが、一軍でバリバリ活躍していても、日常的にデータを計測している打者はあまりいなかったのだ。

しかし、大谷翔平という世界ナンバーワンの選手がやっている。これをヤクルトの村上宗隆やこの年からレッドソックスの吉田正尚などがどう感じたのか。「トラックマン」はともかく、「ブラスト」はバットのグリップに着ける小さな機器だから、興味がなければ目にも留まらないだろうが。

バンテリンドームの打撃練習で大谷は、度肝を抜くような飛距離の当たりを連発して大きな話題になった。各メディアがバッティングケージでスイングする大谷の写真をアップしたが、ケージ裏の正面にはデータを計測する星川の姿もあった。