「私は貧しい子供として育ちました」

「苦労人」として売り込むヴァンス氏だが、貧しい暮らしを生き抜いたとのバックグラウンドは、民衆の支持を得るためのハリボテであるとも指摘される。

ヴァンス氏は、トランプ氏の副大統領候補の地位に上り詰める過程で、自身を「ヒルビリー」として売り込んだ。ヒルビリーとは、アパラチア地方の白人労働者階級を意味する。オンラインメディアのカンバセーションによると、ヴァンス氏は自身がアパラチア出身であることを強調し、アメリカの労働者階級を代弁する立場にあると触れ込んでいる。

また、今年8月のフォックス・ニュースでヴァンス氏は、「私は貧しい子供として育ちました」と述べ、「多くの普通のアメリカ人が共感できる話だと思います」とも語った。

加えて、2016年の回想録『ヒルビリー・エレジー』では、自身の家族が「虐待、アルコール依存症、貧困、トラウマ」を背負っていると主張している。米ニューズウィーク誌による抜粋では、「私は貧しい家庭で育った。政治家の家庭でも裕福な家庭でもなかった」と強調。「私は海兵隊を経て大学を卒業し、最終的にドナルド・トランプの副大統領候補となった。これは、多くの普通のアメリカ人が共感できるストーリーだと思う」と自身の身上を語っている。

「貧しい家庭の出身」は偽りの姿か

しかし、カンバセーション誌は、「ヴァンスの貧困には、ちょっとしたトリックがある」と指摘する。彼の家族は確かに問題を抱えていたが、彼自身は貧しくはなかったし、ヒルビリーでもなかった。育った家庭は、オハイオ州の中流階級だったという。

彼の回想録では、母親が鎮痛剤に依存していたと述べられているが、これは多くのアメリカ人において、貧困層、中流階級、富裕層を問わず、共通の問題であると記事は指摘する。

実際のところ、彼の経済状況は非常に良好だ。CNNは、数百万ドルの資産を持っていると報じている。最大の資産は金融サービス会社・シュワブ社のブローカー口座(金融商品取引用の口座)にあり、約220万ドルから750万ドルの価値があるという。彼はまた、ビットコインを25万ドルから50万ドル持っており、住宅や事業にも投資しているとされる。

副大統領候補への抜擢は「ひどい決定」

あたかも「貧しい民」の代弁者であるかのように売り込んだヴァンス氏だが、実態との乖離は明らかだ。ヴァンス氏の選出に、共和党内からも不協和音が響く。

英メール紙によると、選挙キャンペーンの内部関係者は、副大統領候補にヴァンス氏を選んだことは「ひどい決定」であったと明かしている。特にジョー・バイデン大統領が引退を表明し、民主党候補にカマラ・ハリス氏の名が挙がると、世論調査でのトランプ氏の支持率はみるみると落ち始めた。

選挙キャンペーンのスタッフに当たり散らしたり解雇したりするなど、物事がうまく進まないときにトランプ氏が取りがちな悪癖もすでに見え始めているという。