日本経済はこれからどうなるのか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんは「一時期、日本の株価が急騰したが、それは経済が成長したからでも、新しい産業が登場したからでもない。日本経済の不調は進行している」という――。(第2回)

※本稿は、野口悠紀雄『アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

株価ボードを眺める男性の背中
写真=iStock.com/chachamal
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「日経平均バブル後最高値」がニュースになるおかしさ

2024年2月22日に、日経平均株価がバブル後の最高値を超えた。「日本は、失われた30年からやっと抜けだし、そして、新しい目標に向かってスタートを切ろうとしている」という意見がある。しかし、新しい産業で発展しているアメリカと比較してみると、とてもそうは言えない。

第一に、当然のことを確認しておこう。日本の株価は、35年前の1989年の水準にやっと戻ったに過ぎない(日経平均プロフィル、日経平均アーカイブヒストリカルデータ)。

そして、これは格別重要なニュースではない。なぜなら、経済指標が史上最高値を記録するのは、別に目新しいことではないからだ。というより、そうなるほうが普通だ。むしろ、これまで戻らなかったことのほうが異常である。

実際、ダウ平均株価は、1992年2月1日の3223.40ドルから、2024年2月16日の3万8751.71ドルへと、32年間で12.0倍になっている(yahoo! finance - Dow Jones Industrial Average)。S&Pは、1990年1月5日の352.2から、2024年2月16日の5005.6まで14.2倍になっている(S&P500 Historical Data)。

だから、アメリカの株価は、過去34年の多くの取引日において、史上最高値を記録してきた。そして、そうなっても、格別大きなニュースとは見なされなかった。日本で史上最高値がニュースになること自体が、おかしいのである。

日本経済の実態が好転したからではない

ただし、2024年になってからの日本の株価の上昇が著しいことは間違いない。日経平均株価は、2024年の初値3万3288円から、2月16日の3万8487円まで15.6%上昇した。

ダウ平均株価が、同期間に3万7715ドルから3万8627ドルまで2.4%上昇したのに比べて、上昇率がずっと高い。

では、なぜ日本の株価が急騰したのか? 明らかに言えるのは、日本経済の実態が好転したためではないということだ。日本経済の不調は、むしろ進行している。

GDPは停滞している。実質賃金が下落し、実質家計消費支出を始め多くの需要項目がマイナス成長になっている。プラス成長になっているのは、民間在庫投資(つまり売れ残り)と政府消費支出だけだ。

この結果、日本は、ドイツに抜かれて、GDP世界第3位から第4位に転落した。こうした動きが株価の動向と矛盾していることは間違いない。