日本はもうダメなのだろうか。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は「半導体産業においてはそんなことはない。確かにロジック半導体の分野では遅れをとったが、独自の技術や、国際競争力をもつメーカーは多数ある」という――。(第2回)

※本稿は、鈴木一人『資源と経済の世界地図』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

台湾半導体製造会社(TSMC)
写真=iStock.com/BING-JHEN HONG
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中国は先端半導体をつくることはできない

最先端の半導体を作る能力は誰が持っているのであろうか。実はこの答えは簡単には出せない。というのも、半導体の製造過程は国際分業によって成立しており、どこかの国が独占的に持つ能力ではないからである。

「半導体企業」といっても、アメリカのAppleやNVIDIAのように設計や開発に特化した「ファブレス」と呼ばれる企業と、製造技術や生産に特化した台湾のTSMCのような「ファウンドリー」と呼ばれる企業がある。

また、半導体の製造工程も細かく分ければ何千もの工程に分けられる。大まかに回路のデザインやフォトマスクと呼ばれる設計原盤を作る「マスク製造工程」、半導体の本体となるシリコンウェーハを作る「ウェーハ製造工程」、回路をウェーハに焼き付ける「前工程」、それを完成品にして検査をする「後工程」がある。

これらの工程において強みを持つ国は、それぞれ異なる。マスク製造工程においてはアメリカやイギリスに強みがあり、ウェーハ製造工程では日本や韓国、前工程は台湾、後工程は複数の国に強みがある(図表1)。

半導体製造の原料となるニッケル、ゲルマニウムなどの重要鉱物は中国がシェアを持っており、半導体素材は日本のシェアが大きい。さらにここで注目すべきは、中国は原料にこそシェアがあるものの、製造工程においてはこうしたグローバルな分業体制に組み込まれていない、という点である。