安倍氏を緊急退避させなかったのはあり得ない

「トランプ氏への銃撃でシークレットサービスはしっかりと『Cover & Evacuate』に則り行動していて、しかもCover後に、闇雲にEvacuateさせるのではなく、チーム内で状況のコミュニケーションを取りながら安全な状況を確認した上で、Evacuateさせており、とても素晴らしかったと思います。こうした点からみても安倍元首相がその場にしばらく留め置かれたことは通常、警護の世界ではあり得ない行動なのです」

2023年7月8日、安倍晋三元総理追悼一年祭(一周忌)に際し、大阪護國神社に設置された献花台。主催:一般社団法人板垣退助先生顕彰会
2023年7月8日、安倍晋三元総理追悼一年祭(一周忌)に際し、大阪護國神社に設置された献花台。主催:一般社団法人板垣退助先生顕彰会(写真=Photo memories 1868/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

また、小山内さんは今回トランプ氏を狙った容疑者の「警備体制を上回る犯人の強い殺意」が事件につながったと推測する。

「攻撃者にとってターゲットとの距離はとても重要です。距離が遠くなればなるほど、自分の身の安全を確保できる可能性は高くなりますが、相手を仕留められる可能性が低くなります。逆に、近ければ近いほど、相手を仕留められる可能性は高くなりますが、自分の身の安全を確保できる可能性が低くなります」

自分の安全を捨て、トランプ氏の命を狙った

「今回もおそらく、演説会場周辺にはしっかりとしたセキュリティバリア(境界線)が設定され、会場敷地内へのアクセスには金属探知機を使った出入管理がしっかりと行われていたはずです。近距離の警備体制がしっかりとなされれば通常、攻撃者はターゲットに近づくことすらできません。

おそらく犯人は自身の身の安全という要素を捨て、より確実に仕留められる可能性にかけたと思われます。そのため、ターゲットから約130mという距離まで近づいて銃撃を行い、犯人は警護側の反撃を受けて死亡しています。

このように自分の身の安全よりも、目的の達成を優先する攻撃者には高いモチベーションがあるため、距離を可能な限り縮め攻撃成功の可能性を高めてきます。例えるなら、この犯行は『自爆テロ』のようなものなのです」

そのことを裏付けるように、容疑者の自宅からは爆発物の原料が発見されたり、犯行当日の数時間前に小型ドローンを現場周辺で飛ばしたとことも報じられている。