「発生時」「事後」は問題なし、焦点は「事前」

アメリカメディアの一部報道では、シークレットサービスが演説当日朝の地元警察との調整会議に出席しておらず、事件発生まで警察の特殊部隊と連絡を取り合っていなかったという。さらに一部報道では、容疑者の男がトランプ氏を狙った建物の2階には地元警察の狙撃担当が配置されていたという。

「通常、要人警護は『事前』『発生時』『事後』という3つの段階で警護が実施されます。

事前に調査を行い、危険がどこに潜んでいるかを調査する『脅威評価』を実施し、その上で警備計画を立てて準備を行う『事前』の段階、実際に緊急事態が発生した時にQuick Response(即時に反応)を行う『発生時』の段階、そして警護対象者をより安全な状況に置く『事後』の段階です。

今回のケースでは、狙撃が行われた際のQuick Response(発生時の即応)と、いったん状況が収拾したのを確認した上で警護対象者をすぐに車両に乗せて、より安全な場所に移動した『事後』の行動に問題はなかったと思われます。そうなると問題は『事前』の段階ということになります。

この『事前』の問題点が、警護対象者が現れる前、つまり警備計画を立てる前の事前の情報収集の段階で問題があったのか、それとも情報を収集した後に行われる『脅威評価』の段階で問題があったのか、『脅威評価』に基づいて作成される『警備計画』の段階で問題があったのか、もしくは、警備計画まではしっかりとできていたものの当日の警備に問題があったのか。いずれかの場合が考えられます」

安倍氏銃撃事件の最大の問題点とは

アメリカでの事件。そして未遂であるという点を考慮しても、2年前の日本での出来事と比較してしまう。2022年7月8日、安倍晋三元首相が奈良市の近鉄大和西大寺駅付近で銃撃され死亡した。警護体制が手薄だったことが原因とされたが、今回のトランプ氏の警護体制とどこがどう違ったのか。

安倍晋三元総理暗殺事件から満1年に際し、事件の被害者である安倍元総理を偲び、事件現場となった奈良県大和西大寺において献花をするために順番を待つ群衆
安倍晋三元総理暗殺事件から満1年に際し、事件の被害者である安倍元総理を偲び、事件現場となった奈良県大和西大寺において献花をするために順番を待つ群衆(写真=Photo memories 1868/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

「安倍元首相銃撃で警護のプロの目から見て一番大きな問題点は安倍元首相が銃撃を受けてその場に倒れた後、しばらくの間その場に留め置かれたということ。私たち警護の世界では襲撃や緊急事態が起きた際にやるべきことは2つしかない。

専門用語で『Cover & Evacuate(即時介入&現場退避)』と呼ばれる2つの行動なんですが、Coverというのは脅威となるものがあった時に、守る対象と脅威との間に自分が割って入って守るフィルターになるという行動。

そして第2陣の攻撃に備えるのがEvacuateという行動で、たとえ警護対象者が死んでしまっていても、身体を守りながら移動させて、散ってしまった身体の部位をかき集めて車に乗せて、とにかくその場から緊急退避する。これが警護の基本です」