テレビCMで傷つく人がいる

ちなみに、ACジャパンの広告に差し替えても、テレビCM枠の費用は発生します。公共広告への差し替えはあくまでも「広告主の都合」とみなされるためです。それでも、震災後しばらくの間、多くの企業がACジャパンへの差し替えを選択しました。

生きるか死ぬかの非常時に、普段通りのテレビCMを目にすることで傷つく人がいるかもしれません。少なくとも、震災の被害状況などについての事実確認と、それに基づき企業として何をすべきかといったスタンスが決まらなければ、テレビCMの再開は困難です。

そう考えると、震災直後、テレビ放送は報道特別番組とACジャパンが制作する「公共広告」で占められたのは、各社がごく当たり前の結論を出した結果だといえるでしょう。

問題はその先です。いったん、ACへの差し替えを選択したとして、それをいつまで続けるのか。どのタイミングで通常のCMに戻すのか。戻す時期を決めたとして、どのようなCMなら流せるのか。広告主はみな、正解のない問いを突きつけられ続けることになります。

日常に戻れるCMを作ろう

「テレビの映像がつらすぎる」
「震災報道とAC以外に見るものはないの?」
「もうテレビは見たくないと思いながら、不安になってつけてしまう……」

Twitter(現X)のタイムラインには悲痛なつぶやきがあふれていました。

「頑張ろう」「頑張らなくては」とお互いに励ましあうメッセージと共に、悲鳴のような本音も書きこまれていました。すさまじいスピードで流れてくる人々の声は、私自身の心の声でもありました。

でも、どうすればいいかわからない。自分の無力さに打ちのめされながら連日、テレビとTwitter(現X)をひたすら見続けていました。

自分に今できることはやはり、CMを作ることしかない。日常に戻れるようなCMを作ろう。もしかしたらクビになるかもしれないけれど、それでもかまわない。人生を賭けてもいい。そう思い、鈴木社長に直談判しました。

一緒に歩く家族の背面図
写真=iStock.com/monzenmachi
日常に戻れるCMを作ろう(※写真はイメージです)