お客が答えやすい環境を作りにいく
なぜ、「困っていることはありますか?」と聞くより「困っていないんじゃないですか?」と聞いたほうが、真のニーズが出てきやすいのでしょうか。
一つには、「謙遜」があるでしょう。
「すでに十分な対策をされていて、もう困っていないのでは?」と言われたら、「いえいえ、そんなことないですよ」と、自然に言いやすくなります。
また、別の観点としては、「マンネリへの変化球」というのもあります。来る日も来る日も別の営業が訪れ、「悩みは何ですか?」「課題は何ですか?」と聞いてくるわけですから、お客様としてはさすがにげんなりし、いつしか回答がテンプレート化していくであろうことは容易に想像できます。
すると、「はぐらかしの仮面」による対応が日常化し、あたりさわりのない「表面的な答え」を伝えることに慣れていきます。そんなお客様へ「課題は何ですか?」と聞いても、お決まりの答えしか得られないので、予想のつかない角度から聞いていくのです。
“否定”したのにお客との距離が縮まるワケ
私は、新規の初回訪問をする際、あるときから「困っていないんじゃないですか?」という角度から質問するのが習慣になりました。
20代の頃の営業先は、大手企業の人事部門でした。大企業は、就職人気ランキングが高く、優秀な学生がたくさん集まってくる傾向にあります。私は、ふとあるとき「御社のように就職人気ランキングが高く、優秀な方がたくさんおられる会社さんでは、人や組織の問題なんてそんなに発生しないんじゃないですか?」という言葉が口をついて出てきました。
するとお客様は、「いやいやそんなことないですよ、弊社なんか問題だらけですよ」と、自社の問題点を自分のほうから話してくれたのです。その話を引き出せたことがきっかけとなって、お客様から発注をいただくことができました。
お客様も、本当は困っているし、それを素直に言いたいものです。しかし、誰に対しても「困っている」と言って、片っ端から売り込みを受けていては仕事になりませんから、とっさの防御反応で「そこまで困っていないふり」をしています。
核心質問は、心の障壁を低くする効果があるので、お客様は「困っている」ことをさらっと口に出しやすいのです。営業としては、お客様が抱える問題や悩みに対して共感を示すことで、同じ立場に立って訴求しやすくなります。
核心質問で「売り込み臭」を消し、お客様との距離を縮めることが、真のニーズを引き出す秘訣となります。