ちっちゃい子好きだし
坂本健吾(さかもと・けんご)さんは平工業高校機械科2年生。陸上選手だったが怪我をして引退。今は自転車(ロードレーサー)に凝っている。「小さい時から自宅近くに実業団の練習コースがあって、親も若いときにやっていたとのことで自転車には興味があったのですが、値段が高く買えずにいたところ、父から高校入学祝いということで自転車を買ってもらいました。本格的に自転車に取り組んだのは去年の4月(注・高校2年生になったとき)からです」とのこと。
福島は競輪王国だ。約3000人近くいる競輪選手の中で福島出身者が115人を占め(ちなみに東京出身は105人)、うち、たった9人しかいない競輪界の頂点「S級S班」に2名の選手がいる。いわき市内には、いわき平競輪場もある。「福島県は起伏が多く、高負荷で練習ができるために、速い選手が多いみたいです」と坂本さん。その環境は、坂本さんがかつて親しんだ陸上競技の世界でも名選手を輩出している。原町高から順天堂大に進んだ今井正人(現在トヨタ自動車九州)、いわき市出身でいわき総合高から東洋大に進んだ柏原竜二(現在富士通)と、箱根駅伝で2人の「山の神」を生んだ地でもある。
さて、坂本さん、将来何屋になりたいですか。
「将来は保育士になりたくて。幼少期の間に、震災について悪いイメージが子どもたちにつかないように、復興につながっていくようないいイメージを学ばせてあげたいなって思ってます。保育士の資格を取るには、最低でも短期大学を卒業しないと資格を受けることができないんで、とりあえず短期大学の保育科に入って、実習なりボランティアなりで経験を重ねて、それで保育士の資格を取ろうって考えてます」
保育科を持つ4年制大学もありますよね。4年制ではなく短大をという作戦の狙いは?
「卒業したあとの2年間の差があるじゃないですか。2年間あったら、現場で働いたほうがお金ももらえるし、キャリアも稼げるしっていうんで、2年制にしてます」
いわき市での取材は市内のファミリーレストランで収録している。すぐ近くの席で、母親に連れられた赤ん坊が大声で泣き出した。坂本さん、こうやって赤ちゃんが泣いてるときは、どうすればいいんですかね。
「めちゃめちゃ難しいですね。親御さんに任せるしかないです」
高校生の坂本さんが「親御さん」ということばを使った。すでにそこには保育士としての職業意識の芽生えがあるように思える。坂本さん、ちっちゃい子の面倒を見ること、面倒くさいとか思ったことはありませんか。
「いえ、ないです。前からちっちゃい子好きだし。甥っ子が今、9カ月なんですけど、好きですね。ちょっとやさしくしてやったら、図に乗っていい気になる? 子どもってそういうもんじゃないですか(笑)。素直でズバズバ言ってくるのが子どもだと思ってます」
坂本さんに、保育士になりたいと思ったきっかけを訊くと、いちどに20人の子どもたちの面倒を見ていたときの話を聞かせてくれた。
(明日に続く)