G7広島サミットで「EV販売の数値目標」は盛り込まれなかった
もうひとつ、傑作だったのが2023年11月の東洋経済オンライン「トヨタ最高益を礼賛できないEV周回遅れの深刻」という記事だ。
お馴染みの周回遅れ論だけでは飽き足らず、還暦過ぎのライターが54歳の佐藤恒治社長に対し歳をとりすぎだと批判。ここまで来るともはやギャグである。さすが、「ハイブリッドは座礁資産」と書いたメディアである。
ここは同じギャグで「トヨタを礼讃できない周回遅れメディアの深刻」と返しておこう。
ほとんど知られていないが、2023年5月に開催されたG7広島サミットは、EVにまつわる一連の騒動に区切りを付ける大転換点となった。
共同声明にEV販売の数値目標は盛り込まれず、文書化されたのは「2035年までに保有車両のCO2排出量を2000年比で半減」というフレーズのみ。
「敵は二酸化炭素であり内燃機関ではない」、「脱炭素には様々な技術で取り組むべき」という日本自動車工業会の主張が主要先進国に認められた格好だ。
これはまさにパラダイムシフトである。
二酸化炭素削減率なら日本がトップ
環境原理主義的な考えをもつ米国のケリー気候問題担当大統領特使は最後までEV販売目標の記載にこだわったと聞いているが、最終的には議長国の日本が押し切った。
岸田首相と経済産業省、サポート役の日本自動車工業会は素晴らしい仕事をしたと思う。
尺度がEV比率から二酸化炭素削減率になった途端、実績面でも技術面でも日本が一気にトップに躍り出るからだ。
そもそも二酸化炭素を一切出さないEVこそが唯一の解決策であるという意見は、生産から廃棄に至るトータルでの指標、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)という考え方のもとでは説得力が薄れる。
たしかに走行時の排出はないが、バッテリー生産時に多くの二酸化炭素を排出すること、また火力発電が主流である限り間接的に二酸化炭素を排出するからだ。
大量のバッテリーを積んだ大きく重くパワフルなEVを「エコだから」と選ぶ行為は笑止千万であって、むしろ貴重で高価なバッテリーを有効活用するべく、EVの数十分の1のバッテリー容量で済むハイブリッド車を多く販売した方がトータルとしての二酸化炭素排出量を減らすことができる。
事実、2001年を基準にした過去20年間の自動車による二酸化炭素排出量を見ると、先進国のなかで最も削減率が大きいのはマイナス23%を達成した日本。イギリスがマイナス9%、フランスがマイナス1%と続き、多くの人が環境先進国だと思っているドイツはプラス3%、米国に至っては9%も増えている。