自らは立候補はしない理由
だが、道理としては、自らが都知事選に立候補して堂々と有権者に政策を訴えればいいはずだが、男性はなぜそれをしないのか。
「私が立候補すればいい、考える人はそういないのではと思います。人には能力がありますし、分相応ということもあります。私は緊張しやすいですし、人前でうまく喋れるタイプではありません。都民だったとしても立候補など全く考えられません」
では、実子の写真を使ってまで男性が有権者に知ってほしいという主張は何か。
「経済停滞、待機児童や出生率低下など多くの問題が東京一極集中に起因しています。それらを解消し、子どもたちの生活しやすい東京をつくってほしい。電車では通勤ラッシュで押しつぶされても我慢して、車でも渋滞していて時間に間に合わずイライラが募ります。高いビルや地面のアスファルトなど、街全体がコンクリートに囲まれていて熱がこもっています。車もエアコンも熱を放出し続けています。また、災害被害も人が多くなるほど甚大になり、大災害で救急車が出払ったら、人の命は救えません。大勢の人が混乱した状態では逃げ場もふさがれるでしょう。地価高騰で都心の新築マンションは1億円以上出さないと買えなくなっています。家賃も高く、ウナギの寝床みたいなところに住めば、閉塞(へいそく)感や圧迫感のある生活になってしまいます。これらを改善するには、東京一極集中を解消するしかありません」
都の選管は「前代未聞の事例」
男性がポスターを掲示するためにかかった費用は55万4040円。内訳は、①ポスターを1カ所貼るのに1万円の寄付(=36カ所のため、計36万円)、②貼り出しの作業代が税込みで1カ所3300円(=36カ所のため、計11万8800円)、③ポスター900枚の印刷代に7万5240円、だった。男性は「今後はポスタージャックはできなくなるかもしれない。1回だけのチャンスと考え、今回はできる限りの出費をしました」と話した。
都選管によると、6月21日(告示日の翌日)までに、選挙ポスターについての苦情が1200件以上寄せられたという。選挙ポスターの意義を問うものが多く、全裸写真ポスターなどについては「ポスターをはがせ」などの意見もあったという。都の関係者は「今も選管は電話が鳴りやまない。他部署から選管に電話してもつながらないことがある」と打ち明ける。
男性が加担した“ポスタージャック”についても苦情はあるのか。担当者は、「前代未聞の事例です」と述べたうえで、「公職選挙法違反があれば、警察が対応します」とだけ答えた。苦情件数については「まだ集計が出ていないのでわからない」とのことだった。
一部のポスターが警視庁から警告を受けていることについて、男性は「公序良俗に反しない、誹謗(ひぼう)中傷をしない、事実と異なることを示さないなどのルールは守られるべきだ」とした上でこう答えた。
「ポスター枠は候補者に使用の権利が与えられている以上は、ルールの範囲内であれば候補者の自由に使わせてあげればいいのでは。候補者が自らの意思で使わない自由も尊重するべきかと思います」
都知事選の選挙ポスターをめぐっては、よく「表現の自由」「選挙活動の自由」がうたわれるが、それが本当の意味で「自由」を守ることにつながるのか、われわれはよく考えるべきだろう。
(AERA dot.編集部・板垣聡旨)