なぜ企業の不正は起きるのか。『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)を書いた立命館大学の中原翔准教授は「組織不正とは、その組織内では『正しい』という判断において行われる。それが外部組織と触れたときに不正として露呈する。今回のトヨタ自動車の不正もそれに該当する」という――。

「不正=悪事」とは言えない

――新著『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)は思わず「えっ、どういうこと?」と思ってしまうタイトルです。

シアン・ジョンユアン教授
撮影=プレジデントオンライン編集部(仮)
立命館大学の中原翔准教授

【中原】意外に思われるかもしれませんが、私の専門である組織不正や組織不祥事の研究では、実はそれほど変わった指摘ではありません。

「正しさ」は、学術的には「正統性」や「合理性」とも置き換えられます。

不正を起こした企業側の論理では、その行為は「正しいものである」と認識されており、そうであるがゆえに長らく常態化するものと言えます。

しかし、社内ではいくら「正しいもの」であっても、外から見たときに「不正である」とみなされるケースが少なくないのです。

組織不正とは、企業側は「危ういことに手を出している」というよりも、「正しさ」、つまり社内で共有されていることに正統性や合理性があり、外部の組織が持っている「正しさ」との緊張関係にある中で起きた問題だ、とみることができるのです。

――一般的な組織不正に対する見方とは異なりますね。

こうした見方があまり世の中で行われていないので、あえて問うてみました。

例えば今回、トヨタ自動車の車両試験における認証不正が報じられました。不正、と言われると「けしからん、誰の責任だ」「一体、いつから悪事を重ねてきたのか」と企業だけの責任として世の中に受け止められてしまいがちです。

トヨタとしては悪事を働こうと思ったのではなく、自分たちにとっての「正しさ」を全うした結果、不正に至ってしまったということなのです。