「将来、ビデオゲームを使ってビジネスをしたいんです」

生徒の国籍は日本、インドネシア、メキシコ、アメリカなどさまざま。20人のクラスのなかで孫は、とにかく目立った。

孫が印象的だったのは、彼は授業のあとも、よくカークをつかまえて質問をしたからだ。

大学の講義
写真=iStock.com/skynesher
※写真はイメージです

「ビジネスをやりたいんです」

カークはまだ30代の後半、パートタイムの教師として赴任したばかりで、この強烈な印象を放った生徒を驚きをもって見ていた。

授業で学んだことは、あくまで実践しなければならない。そういうひたむきさに、カークは強い印象を受けたのである。この学生は、何をめざしているのだろうか。

「将来、ビデオゲームを使ってビジネスをしたいんです」

孫は語った。

むろんカークは、そのときは孫がテレビゲームの火つけ役になるとは思ってもいなかった(のちに孫は、日本からインベーダーゲーム機を輸入してビジネスをするが、このときすでにアイデアを練っていた)。

キャンパスにあるカフェテリアの前に、寮生たちがくつろげる場所があった。

小さなキッチンがあるものの、あまり活用されていなかった。

「学生食堂」で生まれた孫正義の経営哲学

孫は友人とビジネスをはじめた。

「学生に安くて、健康的な夜食を提供したいので、この場所を借りたい」

正義は大学の事務局にかけあって許可を取った。

チラシを配り、準備完了。

立地条件としてすばらしい。学生を常にふたり雇って、1日の営業時間は2時間とした。

ヤキソバ、見た目がレバニラ炒めに似ているモンゴリアンビーフン、ワンタンスープなどを安く提供した。味もなかなかいいと評判だった。

片づけや準備などを入れて、1日4時間、時給2.5ドル支払った。

大反響だったが、思いがけないトラブルに見舞われる。友人に売上げをごまかされたのだ。信頼しきっていただけにショックだった。金がからんでくると、たとえ友人でも問題が起きる。

半年あまりで「孫食堂」は廃業ということになったが、いい経験になった。

こうして孫の経営哲学のひとつの原則が生まれる。

ビジネスはひとりではできないが、パートナー選びは慎重でなければならないのだ。