"It all came back to me"
日大東北高2年の三瓶雄河さんに訊く。「将来、何屋になりたいか」は、いつまでに具体的に決めなければいけないと思いますか。
「まず、どういう学部に行きたいかっていうのを決めなきゃいけないから、やっぱり3年生っていうか、大学受けるまでに決めておかないと」
早く決めなければという焦りはありますか。
「ありますね、やっぱり。たとえば『海外でビジネスをやりたいのであれば、経済学部で経済学を学ばなきゃいけないのかな』みたいに、何をやりたいかを大学受けるまでにちゃんと決めないと、学部も決められないのかなって思ってて。でも、それってどうなんですかね? もし、曖昧に『この大学のこの学部にしておこう』と決めて入学して、入学してから『なんか違うな』と思ってもう1回やり直すっていうのは、時間的に無駄にはならないのかなと」
こちらが気になったのは、三瓶さんが「無駄」ということばを使ったことだ。取材後にメールで訊いてみた。三瓶さん、若いのだから、いくらでもリカバリーが効くのでは。無駄ができるのは若い人の特権では? すると、次のような答えが返ってきた。
「わたしもそのように感じます。ある人のスピーチの動画を見たことがあるのですが、そこで述べられている考え方をつねに意識しています。ことばで表現することが難しいので、申し訳ないのですがそれを見てください。ここでその人が言っている『点と点を繋ぐこと』という考え方が、わたしの言いたいこと——とさせてください」。
勘の良い方はもうおわかりだろう。アップル創業者、スティーブ・ジョブズが2005年6月にスタンフォード大学の卒業式で行った、あのスピーチだ。
■スティーブ・ジョブス スタンフォード大学卒業式辞 日本語字幕版
http://www.youtube.com/watch?v=XQB3H6I8t_4
「自分の興味と直感に従って動きまわっているうちに出合ったものの多くが、あとから見ればこの上なく価値のあるものだったのです」——ここでジョブズはカリグラフィに夢中になった話をする。「これらが人生の上で実際に役立つ可能性があるなどとは思ってもみませんでした」。だが、その経験は10年後、最初のマッキントッシュをデザインするときに大きく役立つことになる。ジョブズは言う。"It all came back to me" と。
取材から2カ月半後、その後「やってみたい仕事」に変化は? とメールを送ると、「やってみたい仕事は変わっていません。ただ、国連やNGOで働きたいという気持ちが強くなってきた気がします!」という返事が返ってきた。取材の時点では、進路として具体的な大学名は出ていなかったが、こちらも「国際関係学が学べるところに行きたいと思っています。具体的には、筑波、立命館、法政などです」という返事。なるほど筑波大学には社会・国際学群国際総合学類が、立命館ならば国際関係学部国際関係学科、法政には経済学部国際経済学科と国際文化学部国際文化学科がある。「たぶんずっと考え続けちゃうのかな」と言っていた高校生は、考え続けながら、自身の将来を少しずつ具体的な像に結び始めている。
次に登場するのは、三瓶さんと同じ日大東北高2年生。この連載の中で初めて登場する職業が、彼の志望するものである。