「ロボコップ動き」をつけたのは世界的巨匠

助けを出したのは、ヴァーホーヴェンの妻マルチーヌだった。彼女の勧めで、名門ジュリアード音楽院でダンスやパントマイムを研究するモニ・ヤキム教授がロケ現場に呼ばれた。この重いロボコップ・スーツで可能な動きをつけてもらうのだ。吹越満の得意芸になったほど有名なあの「ロボコップ動き」は、振り付けの世界的巨匠の作品だったのだ。

「あの動きのせいで、ロボコップは流線形の鋼鉄のスーパーヒーローではなくなった。哀れな金属の男なんだ」

ウェラーは納得して現場に戻った。そして猛暑のダラスでスーツを着て、毎日3ポンドずつ体重を減らしながら熱演した。

ハイスパート映画となった監督のこだわり

遅くなったのはロボコップの動きだけだった。撮影が遅れた分を取り戻そうと、ヴァーホーヴェンは次から次に撮って撮って撮りまくった。

ポール・ヴァーホーヴェン監督
ポール・ヴァーホーヴェン監督(画像=Georges Biard/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

「私の言うとおりにやれ!」と朝から晩まで怒鳴り散らすヴァーホーヴェンをハリウッドのクルーや俳優たちは嫌ったが、彼の才能には驚嘆せざるをえなかった。

演出において、ヴァーホーヴェンは「リアルタイム・アクティング」を提唱した。台本を読むのと同じスピードで演技を進めろというのだ。つまり、いちいち台本に書いていない描写、立ち上がる、ドアを開ける、拳銃を抜く、それに無言の表情などはすべて省略され、ストーリー上意味のある動きだけが撮影された。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は「『ロボコップ』では何かがつねに動いている」と書いた。動きのない会話シーンではステディカムを使ってカメラのほうを動かした。

編集はロバート・アルドリッチやヴィンセント・ミネリなどの巨匠と組んできたベテラン、フランク・ユリオステが担当したが、3秒以上カットが続くと、ヴァーホーヴェンから「長すぎる!」と怒鳴られた。こうして『ロボコップ』は観客に一瞬たりとも退屈する暇を与えないハイスパート映画となり、ユリオステはアカデミー編集賞にノミネートされた。

「『ロボコップ』の映像と編集には強烈な衝撃と影響を受けた」

ジョン・マクティアナン監督は『ダイ・ハード』(88年)のDVDの音声解説でそう言っている。

「『ロボコップ』の映像はつねに動き続けている。ときにはまったく必然性もなくカメラが上昇していくショットがある。でも、それがカッコいいんだ。今ではMTV(音楽のプロモーション・ビデオ専門チャンネル)などで当たり前になってしまったが、当時のハリウッドではまったく文法外だった」