品質に命をかけて絶対の自信を持つリンナイでは、自社製品に関する情報を公開し、ユーザーからの問い合わせにも一つひとつ丁寧に対応していった。すると周囲からは「リンナイの製品は信用が置ける」という声がわき起こり、以前よりも営業力が増していったのだ。実際に2006年度、07年度ともに同社の業績は増収増益を達成している。

また、内藤会長は相手を思いやる「仁」の教えも大切にしている。たとえば、ガス機器をエンドユーザーに販売してくれる委託先の利を考え、自らの利は二の次に考える。自分の利を優先した“押しつけ営業”をしても長続きしないからだ。海外進出に当たっては、原則として現地の人をトップに立ててきた。

『武士道』で新渡戸は「不仁にして国を得る者はこれ有り。不仁にして天下を得る者はいまだこれ有らざるなり」という孟子の言葉を引き合いに出して「仁」の重要性を説いている。一見すると君主に対する教えであるが、「国」を「会社」に、「天下」を「市場」に置き換えて考えてみると、現代のビジネスの世界にも通用することがわかる。

顧客や取引先などのことを思いやる心を持たなくても、会社をつくることはできる。しかし、それで事業を行っていても誰からも信頼されず、市場を制することなど夢のまた夢となる。ITバブルの最中、一攫千金を夢見て創業する者が数多く現れた。しかし、いまそのうち何社が残っているというのか。

いまリンナイは米国、オーストラリア、中国、英国など海外16カ国に拠点を築き上げ、「世界一のガス機器会社になる」という内藤会長の夢を着実に実現しつつある。その歩みを見ていくと、「義」と「仁」の教えの実践が、グローバル市場で経営基盤を固めていくうえでいかに重要かを、語らずして教えてくれるのだ。

(川本聖哉、山口典利、平地 勲=撮影)