専門的でややこしい話を相手に伝えるにはどうすればよいのか。モチベーション&コミュニケーション代表の桐生稔さんは「マニアックな説明ほど、あえて自分が言いたいことは捨て、相手が聞きたい言葉に絞ることが必要だ」という――。

※本稿は、桐生稔『提案・指示・交渉・雑談・プレゼン・会議etc. あえて話さない戦略』の一部を再編集したものです。

専門的な説明が記憶に残らない

専門的なことを一度に説明されると、まったく記憶に残らないことがあります。

以前、理学療法士(リハビリの専門家)の人とこんな会話をしました。

【理学療法士】桐生さんは股関節が硬いので自宅で鼠径部のストレッチをしてください。3つ教えますね。1つ目は膝を地面につけて~、2つ目は両膝を大きく開いて~、3つ目は両足の裏を合わせて~

【理学療法士】ぜひやってみてください

【私】あ、はい……

こんなやりとりでした。

結局、私はひとつも覚えておらず、実践しませんでした。

とても丁寧に教えていただいたのですが、一度に説明されて覚えられなかったのと、専門用語も混ざっていて全然頭に入ってこなかったのです。

以前、柔術を習っていたときも、

【先生】左手を相手の首に回し、そのまま両足で相手の右手を挟み、胸で相手の体を抑えながら、相手の左手を自分の右手で取る。さぁ、やってみて

【私】最初、なんでしたっけ?

【先生】ちゃんと聞いてたの!

と、怒られたことがありました。

たしかに覚えていない私が悪いのですが、専門的なことは1個ずつ説明してもらわないとまったく記憶に残らないのです。

多くのハテナマークを持つ木製の人形
写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn
※写真はイメージです

相手が聞きたい言葉を絞る

マニアックな説明をするときほど、次の鉄則を守ってください。それは、あえて自分が言いたいことは捨てる。そして相手が聞きたい言葉に絞る。です。

例えば、2023年に多くのニュースに取り上げられた「インボイス制度」。

世の中が大変混乱した税制度の見直しです。

あまりなじみがない方もいるかもしれませんが、簡単に説明すると、

・インボイスとは適格請求書のこと
・課税事業者は登録番号を取得する必要があること
・適格請求書にもとづいて消費税の仕入控除税額を計算すること

です。

簡単に説明しても、これだけ専門的な言葉が並ぶので、まったく頭に入ってこないと思います。

この制度、最初はあまり気にしていなかった人も多かったようですが、「ちゃんと対応しないと、税金を多く払うことになる!」ということが世間に認知されてから、一斉に動き出す人が増えました。

専門的なことを言われても耳に入ってきませんが、自分にとって大事な情報、「税金が高くなるかも⁉」という一言が人を動かすことがあるのです。

だからこそ、マニアックな説明ほど、あえて自分が言いたいことは捨て、相手が聞きたい言葉に絞る能力が求められます。