沈黙の受け止め方

沈黙は、大きく分けて2種類あります。

ひとつは、話し手が自分の考えや感情を吟味している沈黙です。話し手にとって、自分の気持ちや考えを吟味するために沈黙が必要なことがあります。ですから、この沈黙は大切な時間です。聴き手は深くゆったり呼吸をしながら、体をゆるめてじっと待ちましょう。

もうひとつの沈黙は、話し手が話せなくなっている沈黙です。例えば、気心の知れた人ではない、心の距離があまり近くない人と話をすることは難しいものです。話す内容が浮かばず、頭が真っ白になった経験は誰にだってあるでしょう。

なぜ話せなくなるかというと、何を言えば相手が自分のことを理解し受け入れてくれるかがわからず、「相手に拒否されたりバカにされたりするかもしれない。だからこのこともあのことも話してはいけない」と心が自動的にストップをかけるからです。

ですから、「こんな考えや感情を持っている自分のことを、人は好いてくれない」という信念と「人から好かれなければたまらない」という寂しさを心の底に抱えている人ほど、心のブレーキがかかるため自分のことを話すのが難しくなります。

話し手の不安には「理解をしめし、共感的に応答する」

傾聴の場面においても、話し手が話せないのは不安だからかもしれません。

話したいことはあっても、それを話すと「バカにされたり、否定されたりするんじゃないか」「わかってもらえないんじゃないか」と感じているのです。そして、話すことが何も浮かばず困っているのかもしれません。

古宮昇『一生使える! プロカウンセラーの傾聴の基本』(総合法令出版)
古宮昇『一生使える! プロカウンセラーの傾聴の基本』(総合法令出版)

そのようなことが起きるのは、共感的な理解が十分に伝わっておらず、話し手を信頼して心を開くことができていないからです。もしくは話し手の心に辛すぎる感情が湧きあがってきそうになっていて、それを抑えようとしているからです。

話し手が話せなくなっているときは、先ほどまで話し手が話していた内容の特に大切なポイントを、短く繰り返して理解をしめしましょう。沈黙して困っている様子なら、その困惑している気持ちに対しても共感的に応答しましょう。

例えば、話し手が母親から理不尽に叱られた話をしているとします。途中で続きを話せなくなった話し手が沈黙した場合、「お母さんに理不尽に叱られたんですね」と、要点となる部分を返すのがひとつの方法です。

話し手が沈黙する直前、母親から理不尽に叱られたことに対する怒りを語っていたり、もしくは話し方や表情によって母親への怒りをありありと表現したりしていたなら、その怒りを受け止め、「お母さんに叱られて腹が立つんですね」と応答すると良いでしょう。

話し手が沈黙して困っている様子であれば、ただ黙って待っているのではなくそんな話し手を受け入れ、「話すことが浮かばず困っておられるのでしょうか」とか、「何を話せばいいか、わからなくなっておられますか」のように、穏やかな態度で応答しましょう。

話し手が表現している困惑に対し、共感的に応答することが適切です。

【関連記事】
【第1回】子どもに大人気の先生は実は自然とこれができている…言葉にしなくても相手に好印象を伝える傾聴メソッド
これができないと孤立する…ハーバード大の研究で判明「人間関係が豊かな人と貧しい人」を分ける2つの要素
親が絶対に知っておくべき「人と会うと元気になる子」と「一人の時間が必要な子」を分ける決定的な違い
扉をバンッと閉めて怒りをぶつけてくる…精神科医が教える「不機嫌がダダ漏れの人」に対抗する簡単な方法
「脳トレはほぼ無意味だった」認知症になっても進行がゆっくりな人が毎日していたこと