業務上過失致死罪で問われるケースも
2022年1月に1度だけ、ウーバーイーツ配達員が当時78歳の歩行者をはねて死亡させた自転車事故が「業務上過失致死」(第211条前段、法定刑は5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金)で法廷へ出てきた。
新聞配達中の事故も、オフィス機器のメーカー社員による電動アシスト自転車での得意先回り、その途中の事故も「重過失……」だったのに、なぜ? コロナ禍でウーパーイーツが注目されたので、検察が“挑戦”をしてみたのか……。
とにかくこの事故は極めて異例であり、自転車事故のほとんどはさきほど紹介した罪名で審理される。
さて、以上を踏まえて、実際に重過失傷害罪に問われた裁判例を3件、レポートしよう。
早朝から夜まで賠償のために働く日々が始まる
被告人は、黒スーツに濃紺のネクタイ、スリムでマジメそうな25歳男性だ。仕事は「飲食店従業員」。自転車で出勤途中、信号が赤になった。左側の歩道から青信号の横断歩道へ、数人の歩行者が出てきた。
被告人は、その前を通過できるだろうと考えた。やや右へハンドルを切り、約20キロの速度で進行。しかし注意が足りず、65歳の男性に衝突した。男性は転倒して頭を打ち、脳挫傷などで加療約9カ月、後遺障害を伴う重傷を負った。
「今後の見通し」についてまとめた書面を弁護人が読み上げた。メモしきれなかった部分を「……」でつなぐ。
弁護人「治療費等……払いたいが、保険には一切入っていない……午前11時から午後9時まで、土日も勤務……生活費で一杯いっぱい……実家は借家……父親は59歳、病気……母親は57歳、パート……兄も弟も派遣社員……現状では被害弁償は困難……」
被害弁償が困難なケースはよくある。弁護人は続けた。
弁護人「アパートの家賃……現在月8万円……もっと安いところ、敷金、礼金不要のアパートに引っ越しまして、早朝6時から9時まで弁当屋で掛け持ちのアルバイトをする、それを現実のものとしますと、少なくとも月に7万円を支払える。10年間にわたってお支払いし、少しでも慰謝に努め……」
求刑は禁錮1年。2週間後に言い渡された判決は、禁錮1年、執行猶予4年だった。
一般には知られていないようだが、交通事故の判決は、たとえ死亡事故でもほとんどのケースで執行猶予がつく。猶予は最長5年。3年が圧倒的に多い。本件は4年なので、重い判決といえる。
被告人はこれから安アパートに住み、早朝から夜まで賠償のためだけに働く日々を、35歳まで送ることになるわけだ。身近で手軽な自転車の、一瞬の不注意から。