食生活の変化から、舌の力が弱くなっている人が増えている。耳鼻咽喉科医の桂文裕さんは「舌の機能が低下すると食事をうまく食べられなくなったり、全身のバランスが崩れて頭痛や肩こりが生じたり、口呼吸になってアレルギーを発症したり、さまざまな不調の誘因になりうる」という――。

※本稿は、桂文裕『舌こそ最強の臓器(舌ストレッチ動画付き)』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

高齢女性の口元
写真=iStock.com/jacoblund
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体の不調につながる「舌の衰え」

眠ってもまだ眠たい。
疲れやすい。
アレルギー症状がある。
顔や首のシワが気になる。姿勢が悪く肩こりが気になる。
口が乾いて口臭がある……。

といった悩みはありませんか?

いろいろな改善策を試しても解決せず、慢性化しているとしたら、その背景には意外な原因が隠れている可能性があります。

舌力ぜつりょくが衰えているせいかもしれないのです。

舌力とは、文字通り、舌の力のこと。驚かれるかもしれませんが、カラダの不調の大半に舌力の低下が関係しているのです。

舌力が衰えて、のどの奥を眺めても、のどちんこ(口蓋垂こうがいすい)や扁桃腺へんとうせんが舌の奥に落ち込んでいて見えにくい状態。これは落ち舌であり、舌力が低下している重要なサインです。

舌力が衰えて落ち舌になり、舌の機能が低下すると、「オーラルフレイル」の誘因となります。

オーラルとは「口を使う」という意味であり、「フレイル」とは「衰える」という意味。オーラルフレイルは、口の機能の衰えを意味しており、噛む(咀嚼そしゃく)、飲み込む(嚥下えんげ)に何らかの障害が起こるリスクが高くなります。

次のような自覚症状があると、オーラルフレイルが始まっている可能性があります。

・食べこぼしがある
・噛みにくい食べものが増えてきた
・わずかでもむせ返りがある
・誤って舌や頬の内側を噛むことがある
滑舌かつぜつが悪くなった

オーラルフレイルを放置すると、食べものも飲みものもうまく体内に取り込めなくなり、カロリーや栄養が不足し、高齢者では誤嚥性肺炎ごえんせいはいえん(食べかす、唾液、口腔内の細菌といった本来入ってはいけないものが気管に流れ込み、その先の肺で炎症が生じるもの。高齢者の死因の上位に挙がる)の誘因となります。話すこと(発話)も不明瞭になり、コミュニケーションも取りにくくなるでしょう。

口がぽかんと開いた“ぽかん口”で口呼吸だと、鼻呼吸では排除されるホコリ、ウイルスや細菌などが口から体内へ侵入。それらはアレルギーや感染症を引き起こすきっかけとなります。

舌力低下や落ち舌は睡眠中のいびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)の引き金にもなり、動脈硬化による心臓病や脳卒中のリスクを高めてしまいます。

加えて、舌は全身の筋肉や骨格とも密接にリンクしているため、舌力が低下するとドミノ倒しのように歪みが波及し、不良姿勢、頭痛、肩こり、腰痛などが起こります。

この他、舌力の低下はあらゆる病気を引き起こす誘因になり得ます。私は、カラダの不調のほとんどに舌力低下が何らかの形で関わっていると考えています。