誰かの給料を上げるために、誰かの給料を下げなくていい
いままでは誰かの給料(評価)を上げるために、誰かの給料(評価)を下げる必要があったが、これからは、誰かの給料(評価)を上げるためには、誰かの給料(評価)を上げないだけで済む。
査定する上司の気持ちを考えてもらえば、この変化がものすごく大きいことは、誰にでもわかるだろう。「あなたの給料を下げます」と伝えずに済み、「あなたの給料は上がりません」と伝える(もしくはなにも伝えない)だけだと考えれば、どんなに気分はラクだろう。
いわばバブル崩壊以降の人事制度は、「マイナス評価」が目的であり、これからは再び「プラス評価」が目的の人事制度になるだろう、ということである。
そして、インフレ傾向がある程度長く続くことが共通の認識になれば、企業はまた一斉に人事制度を変更するだろう。今度は、「従業員の皆さんの貢献に報いるため」とか「人材採用に力を入れるため」とかわりと本当に前向きな理由がつけられるはずだ。
「360度評価」は意外と当てにならない
少し話は飛ぶが、バブル崩壊以降の人事制度では、いわゆる360度評価と呼ばれる上司・同僚・部下(場合によっては顧客など)からの評価を人材育成の手法として導入したケースも多い。
ただし、360度評価はあくまで人材育成のための手法であり、「公式には」人事評価には使わない、という建前だったことが多い。
とはいえ、360度評価の結果は人事部が把握しているわけで、その結果が人事に全く影響しなかった、ということはないだろう。人事部としても、特に将来の幹部候補については、昔から上司や同僚からの評価の情報を収集していたし、制度として360度評価を導入しなくても、自分がどう思われているか、ある人が周りからどう思われているかは、なんとなくわかっていたはずだ。
では、なぜ360度評価が導入されたのだろうか。それは、「誰かの給料を上げるために、誰かの給料を下げる」ためだ。
誰かの給料を下げるためには相対的なマイナス評価をつける必要があるが、上司はその責任を負いたくない。360度評価を導入すれば、同僚や部下もこう評価していますよ、と説明することができ、上司の責任を和らげることができる。
しかし、360度評価は意外と当てにならない。筆者が新卒で入ったリクルートでは、こうした360度評価が1970年代から導入されており、時代によってその仕組みは異なるが、筆者自身の360度評価の結果は安定しなかった。