「挫折なしで、お願いします!」という東大生

定期的に東大生と勉強会を開いています。また、小説のリサーチなどで大学生アルバイトを頼んだりもしているので、現役の大学生と話す機会が多いのですが、あるとき学生からこう質問されました。

「私も真山さんみたいにいろんなことに挑戦をして、勝ち抜いていきたいです。どうしたらいいですか」

嬉しい決意ですよね。応援したい。

「二十代のうちは、いろんなことに挑戦して、たくさん挫折もするだろうけどそれを乗り越えていくといいよ」と励ましたら、彼女はこう返してきました。

「挫折なしで、お願いします!」

半分笑い話ですが、もう半分はとても笑えない。挫折なしを願うなら、挑戦なんてしなくていい。

若者が挫折を嫌うのは、言葉の響きの問題もあるかもしれません。挫折という言葉を非常にネガティブにとらえている。

路上で誰かを待っている若いビジネスマン
写真=iStock.com/monzenmachi
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私にとっては、挫折はかっこいいものです。子どもの頃に『巨人の星』や『あしたのジョー』を見て育っているので、素直にそう感じてきました。

挫折とは、かっこいいものだった

今の若者たちも、アニメや漫画の中の主人公の挫折は、それを乗り越えていく過程と共にウェルカムなのに、自分の人生になると、その感覚が働かない。想像力がつながっていかない。だから、もっとかっこいい言葉に言い換えるという手は一つあると思います。

タングル』という小説を書いたときに、東大で光量子コンピューター研究をしている東京大学工学部の古澤ふるさわあきら教授に、ずいぶんご協力をいただきました。ノーベル物理学賞に最も近いところにいるすごい研究者ですが、生き方や考え方がユニークで面白い。

彼の研究室では、古澤さんは「監督」、学生は「プレイヤー」です。監督は自分では動かないで、プレイヤーに対して「どんどんホームランを打ちに行け」と言い続ける。大振りして三振しても構わないぞ、と。

こういうことを口先だけで言うリーダーは多いのですが、彼がすごいのはここからです。

実験にはもちろん事前に計画があるのですが、時にはそれを超えてトライせざるを得ないことがあります。

そうすると、時々、機械が壊れてしまう。光量子を扱っている最先端の研究室ですから、検査機ひとつが二千万円くらいする高価なものです。学生は青くなって「すみません、検査機が壊れました」と、謝りに来る。

その時、古澤さんは「ナイスチャレンジ!」とだけ言って、翌週には新しい二千万円の検査機を用意する。そして、こう言うんです。

「もう一回、挑戦しろ」