今晩越せない患者のそばにゆくと「屍臭がする」という看護師

ある女子大が看護学部を作った時に、そこの先生になるナースの方たちと雑誌で対談したことがある。看護教育と女子教育について対談して、終わった後にご飯を食べながら雑談してる時に、いろいろ面白い話を伺った。

ナースというのはなかなかミステリアスな仕事である。いろいろな異能の持ち主がいる。私が対談した方は、今晩越せない患者のそばにゆくと「屍臭がする」のだと教えてくれた。実際に、その通りになる。同僚には、明日の朝まで持たない患者のそばにゆくと「鐘の音が聞こえる」という人がいたそうである。ナースたちの間では「そういうことって、あるよね」で通るのだけれど、もちろんドクターたちはそんな話を信じない。科学的エビデンスがないのだから信じるはずがない。

ところがその病院の近くで大きな事故があって、次々と重傷患者が搬入されてくるということがあった。医療資源には限りがあるから、トリアージをしなければならない。そうなると、もうドクターも仕方がなくなって、この2人のナースを呼んで「この人、屍臭してる?」「鐘鳴ってる?」と訊いてトリアージの判断をしたのだという。そういうことができるような人が医療家になる。

廊下を歩く医者のバックショット
写真=iStock.com/sudok1
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30万人もの子どもたちが不登校になっている原因

学校にもそういうある種の「ミステリアス」な部分が必要だと私は思う。

子どもたちはまだ「野生」に半身を残している。そういう子どもたちを「この世」にソフト・ランディングさせなければならない。そのためには「セーフティネット」が要る。それはいろいろ先生がいて、さまざまな価値観を持っていて、さまざまな教育方法を用いて、一人ひとりの子どもを見る目が違うほうがいい。子どもたちを学校に包摂するためには、何よりも多様性が必要なのである。

今、30万人もの子どもたちが不登校になっているのは、学校の中は子どもたちが「とりつく島」がないからである。学校の価値観が一律で、子どもたちを定型に押し込め、テストの点数で格付けして、成績の良否に基づいて資源配分する。その冷酷な仕組みが子どもたちを傷つけている。