ドラマが気づかせた笠置と淡谷のシングルマザーという共通項

【佐藤】とにかく、笠置シヅ子の物語の中で淡谷のり子さんがここまでフューチャーされるというのは、想定していませんでした。僕が笠置さんについて書いた本(『笠置シヅ子 ブギウギ伝説』)でも淡谷のり子さんは「ブルースの女王」としてちょっと登場するだけです。でも「ブギウギ」を見ているとたしかに、笠置さんにとって淡谷さんはシングルマザーの先輩であり、淡谷さんは小言を言ったりしながらも、ずっと笠置さんの危なっかしいところを見てあげていた。その視点が新鮮でした。

【足立】ドラマでは、りつ子がどこかでスズ子のことを尊敬しているんだと思うんですね。出会ったときから、りつ子はスズ子に「下品な歌を歌っているんじゃないわよ」みたいなことを言ってきたし、二人の歌の方向性はまったくちがう。ただ、おそらく、りつ子は、自分とは全く違うスズ子の力みたいなものは感じていたんだろうなと思います。同じシングルマザーでもあるけれど、りつ子の方は、歌を選んで、実家に預けっぱなしにしちゃったけれど、笠置さんの方は、ひとりで子どもを産んでも、仕事と両立して育てようと一生懸命頑張る。

笠置シヅ子が劇中で「東京ブギウギ」「センチメンタル・ダイナ」を歌う映画『春の饗宴』(1947年東宝)。ホームドラマチャンネルで4月7日放送
『春の饗宴』©1947 TOHO CO,.LTD.
笠置シヅ子が劇中で「東京ブギウギ」「センチメンタル・ダイナ」を歌う映画『春の饗宴』(1947年東宝)。ホームドラマチャンネルで4月7日放送

【佐藤】スズ子が娘を産んだときに、りつ子がそのことを言葉にしましたね。それは知識として知ってはいたけれど、淡谷さんの人生をそういう風に考えたことはなかったんですよ。

【足立】半ば、子供を捨てた母親、ということになってしまうわけですよね。

【佐藤】昭和歌謡や映画といった事象からの研究をしてきたので、そういう認識が僕の中にはなかった。だから、「ブギウギ」にそれが重要なことだと、気づかさせてもらいました。

【足立】それは淡谷さんの本を読んだ時に感じました。直接書いてあったかは覚えていないので受けた印象ですが、自分は子どもより歌を選んで歌っているということの業の凄まじさというのか、そういうものを抱えながら歌手をやっているんだろうなというのは。

「笠置の史実に詳しくないくせに」と叱られたことも

【佐藤】そういった感情と表裏一体になって、だからこそ彼女は歌手としてプロに徹しているんだということが、すごく納得できる。足立さん、お見事でしたね。とにかく、スズ子に関しても、笠置さんが大阪で育った幼少期から描き、全体としてライフタイムストーリーに仕立てたのがすばらしかったと思います。

【足立】ありがとうございます。ちょっと怖かったんですけどね、「お前、笠置さんに詳しくないのに、勝手に史実を変えてるんじゃねぇ」とネット上でお叱りの言葉をいただいて。

【佐藤】エゴサーチ、するんですか?

【足立】毎日、していました(笑)。映画の公開のときも毎日しますね。

【佐藤】僕もFacebookで感想を投稿していたけれど、賛否両論あるから、脚本家さんとして心臓に良くないのでは……。

【足立】僕は、批判的コメントを読んでも、そんなにへこまない方なので大丈夫ですけどね。佐藤さんの感想は、いつもありがたく読んでいました。