目先のことで手いっぱいで先行投資ができない

日本の製造業では、仕組みとしてデジタルへの移行が難しい面もあるのは確かです。

たとえば、何かの製品や装置を組み立てるには、さまざまな規格の加工部品(金属部品)が必要になります。その際、少量生産を請け負ってくれるジョブショップなどに部品の製作を依頼することになります。

溶接をする工場作業員
写真=iStock.com/mimal
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その段階でも三次元で設計したデータを二次元に変換する必要が生じます。多くのジョブショップはCADやCAMには対応していないからです。下請けのジョブショップなどがこうした投資をしてこなかったことも、デジタルへ完全移行できない理由の1つになっています。

一般的なCADは1ライセンスで100万円~1千万円ほどします。CAMも1ライセンス数百万円レベルです。1ライセンスというのは、1人の担当者が1台のパソコンでそのソフトの使用が認められる権利のことです。パソコンのように1台買えばみんなが使えるわけではないということです。複数の人間が情報交換しようとすれば複数のライセンスが必要になります。それだけ多額の資金が必要になるわけです。

ジョブショップの利益率は高くないので、先行投資をする余力はなかなか蓄えられません。長期的な考え方ができなくなるほど、目先のことで手いっぱいになっている場合が多いものです。ひとくくりに語れることではないにしても、日本の製造業はそういう道を歩んできており、抜け出せずにいるのです。

トヨタでも高機能CADを多く導入するのは難しい

少し話は変わりますが、トヨタのようなレベルの企業は当然、設計や解析にCADを使っています。高機能な分、高価格になるハイエンドCADと呼ばれるものです。

Dassault Systemes(ダッソー・システムズ)のCATIAなどがそうです。CATIAであれば1ライセンスあたり500万円くらいします。

トヨタの部品加工を請け負うジョブショップにもCADを導入する必要が出てきますが、CATIAを導入するのはさすがに難しいようです。そのため、グレードの低いCADシステムを使う場合が多くなります。すると、CATIAのデータをそのまま読み込むことができなくなります。

中間ファイルにデータを変換して情報をやり取りしますが、100%そのままの情報ではなくなり、抜け落ちてしまう情報も出てきます。

Windowsなどでも、古いバージョンのものを使っていれば、最新のバージョンで作成したデータファイルを開けないことがあります。互換性のあるファイル形式でやり取りすれば開けられても、サポートされない機能が出てきます。

今後、改善策が考えられていくのでしょうが、これまでに限っていえば、デジタルの利点を消し去るような運用がなされている部分が多かったのは事実です。