むしろ「あきらめることが許されない」のでは
これだけ条件がそろったスタートアップが失敗したら、政府のメンツは丸つぶれになる。そうした政府の思惑を考えると、スペースワンの豊田社長の「あきらめない」という発言は、むしろ「あきらめることが許されない」と言っているように響く。
民間企業であるとはいえ、スタートアップには国のお金がかなりつぎ込まれている。
スペースXなどのスタートアップを育てるために、NASA(米航空宇宙局)や米政府は開発資金などを提供している。そのやり方を日本政府も取り入れようとしている。
文部科学省は、中小企業の技術開発と事業化を一貫して支援する制度(SBIR)で、スペースワンに、今年9月までに3億2000万円を支援することを決めた。
政府は、SBIRのほかにも、スタートアップなどに10年間にわたって総額1兆円規模の支援をする「宇宙戦略基金」を新設。JAXAもスタートアップ支援が業務のひとつとなっている。
日本も力強い宇宙スタートアップを作ることが必要だ。大手企業だけでは国際競争力を持ちえない。だが、政府が自分たちの言いなりになる企業に重点的に支援するようなことがあっては、いつまでも育たないし、支援規模と現実が釣り合わないまま税金の浪費、企業倒産という最悪の結果を招くかもしれない。最近では、米国の著名な宇宙スタートアップが倒産する例も続いている。安泰な市場ではないのだ。
国産ジェットやインフラ輸出の悪夢がよみがえる
宇宙戦略基金の候補をどのように選ぶかは、JAXAが関係官庁の意見を聞いて決めることになっている。なぜその企業を選んだのか、その金額はどうやって決めたのか、などを明確にし、国民に説明することが必要ではないか。
経産省は、国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」の開発に巨費を投じたが、開発する三菱重工業は、開始から15年で中止した。
1980年代から90年代には、官民の人材を集めてAI(人工知能)などの実現を目指す「第五世代コンピューター」プロジェクトに約540億円を投じたが、実用につながらずに終わった。半導体政策、成長戦略の「インフラ輸出」など、企業を集めては多額の国費を出してきたが、うまくいかなかった。
宇宙スタートアップでは二の舞にならないようにしてほしい。カイロスの打ち上げ失敗は、そのことを肝に銘じて取り組むべきだ、と示していると思う。