“ホリエモンロケット”のような熱気が感じられない
スペースワンは、大手精密機器メーカー・キヤノンの子会社のキヤノン電子、大手製造会社・IHIの子会社のIHIエアロスペース、日本政策投資銀行などが出資し、2018年に発足した。
豊田社長は、経済産業省のナンバー2である経済産業審議官を務めた後、2008年に新設された政府の宇宙開発戦略本部(本部長・首相)の事務方トップ「事務局長」を務めた。宇宙開発戦略本部は、日本の宇宙政策を策定する。現在の宇宙スタートアップ振興策も、ここの有識者会議での議論が土台になって進められてきた。
遠藤取締役は、JAXAのロケット開発に長年携わったエンジニアで、JAXA副理事長も務めた。阿部執行役員も経済産業省出身だ。
串本町に射場建設を決めた当時の和歌山県知事も、経産省出身だ。
宇宙スタートアップというけれど、なんだか経産省を中心に推進する官のプロジェクトみたいだ。そんな思いを抱いたのも、堀江貴文さんが設立したインターステラテクノロジズのような「何が何でも僕たちのロケットを打ち上げるんだ!」という、ベンチャーならではの熱気や、失敗した時の悔しさが記者会見からあまり伝わってこなかったためだろう。現場のエンジニアなども登壇すればまた違ったかもしれない。
官からの「信頼」と「厚遇」ぶりが際立っている
違和感のもう一つは、政府の情報収集衛星の小型衛星をカイロスに搭載したことだ。
情報収集衛星は、内閣官房・内閣衛星情報センターが管轄する事実上の偵察衛星だ。鹿児島県の種子島宇宙センターから、H2Aロケットで打ち上げられているが、機密保持のためとして、国民から見ると、秘密のベールに包まれている。
打ち上げ時にも厳戒態勢がとられる。2003年に情報収集衛星が初めて打ち上げられたときには、種子島宇宙センターの周辺道路に警察官が20メートル間隔で立ち並んで警戒にあたるなど、ピリピリしていた。
安全保障上の機密として、衛星のスペックは公開されていない。衛星が撮影した画像も、大規模災害発生時に、衛星の能力がわからないように加工処理した一部の画像を公開するだけで、基本的に一般国民には公開されていない。
カイロスに載せた小型衛星は、情報収集衛星に問題が起きた時に代替したり、何か事があった時にすぐに対応したりするための衛星だ。そういう類の衛星を、発足からわずか6年の会社の、しかも打ち上げ実績のないロケットに搭載するのは異例中の異例といえる。宇宙開発の専門家や宇宙産業に携わる人たちも、驚きを隠さない。
これも米スペースXにならったのかもしれない。スペースXは、今では当然のように軍事関連の衛星を打ち上げている。だが、政治家などから「国家機密に関わる軍事衛星を、スタートアップに任せるわけにはいかない」と猛反発され、スムーズには進まなかった。それを思うと、スペースワンに対する、官からの「信頼」と「厚遇」ぶりは際立つ。