左遷された社長、挽回したい製造会社、過疎地の期待…

もともとスペースワンは、ユニークな始まり方をした。設立の引き金を引いたのは、キヤノン電子の当時の社長で現会長の酒巻久さんだ。

酒巻さんは、キヤノンの役員を務めた後、本人の弁によれば「左遷されて」キヤノン電子の社長になった。それを機に、キヤノン電子の得意技術を生かして小型衛星を開発し、自前の射場から自前のロケットと衛星を打ち上げる、一気貫通型の宇宙ビジネスに取り組もうと決めた。常識になっていた「宇宙開発には時間とお金がかかる」を覆すためで、「宇宙時間」「宇宙価格」からの脱却を唱えた。

ロケットを開発したIHIエアロスペースは、小型ロケットの開発・打ち上げで約70年の実績がある。だが、H2Aなどの大型ロケットを担当する三菱重工業と比べるとビジネスの規模は小さい。小型衛星ブームを追い風に、小型ロケットを頻繁に打ち上げて、形勢挽回をはかろうとしている。

射場が建設された串本町は、産業に乏しく、高齢化と人口減に悩む町だ。射場ができることで雇用創出や観光の発展につながることを期待している。

そうしたさまざまな組織や地元の思惑に答えることがスペースワンに求められている。

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「天下り文化」をスタートアップに広げていいのか

もちろん官僚出身者がスタートアップへ転身すること自体は珍しいことではない。日本国内の宇宙スタートアップは約100社あるが、官僚出身者が社長を務めていたり参画したりしている会社はほかにもある。

宇宙好き、ロケット愛の強い人たちだけでは、ビジネスはできない。法律、行政、財務などさまざまな専門家が必要であろう。

ただ、気になるのは、官の文化が幅を利かせ、スタートアップの勢いや可能性を摘んでしまわないかという点だ。

3月15日に開催された参院予算委員会で、立憲民主党の水野素子議員が、「カイロスロケットの社長は元役人。天下りの悪しき文化をベンチャー(スタートアップ)にまで広げると、日本の産業競争力の未来は暗い」と舌鋒鋭く追及した。水野議員はJAXA出身であるが、このへんの感覚は一般国民の懸念とも合致するのではないか。

日本国内の宇宙スタートアップはほとんどがまだ利益を生み出すほど成長していない。政府としては、自らの政策の妥当性を強調するためにも、何としても早く成功例を作り出したい。スペースワンはその第一候補といえるのだろう。