北朝鮮は、体制の存続を脅かす可能性のある新しいテクノロジーの影響もはねのけてきた。インターネットの浸透と情報の流入もその都度阻止してきたと、スナイダーは言う。
「政権中枢にとって直接の懸念材料となる国内の要因は、宮廷クーデターの可能性だけだ」と、スナイダーは指摘する。「脅威は街頭ではなく、もっと金の身近な場所にある」
ただし、なんらかの軍事クーデターが起きる「可能性はあるが、それは特異な状況に限られる」と、アムは言う。実際、これまで金は、自分を脅かそうとする動きを察知して対処する能力を実証してきた。
13年12月には、政権ナンバー2とも呼ばれていた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)を処刑している。スナイダーによれば、張は体制の安定を脅かす「可能性が最も高い」と見なされてきた人物である。
張の処刑は、「指導部が極めて強靭で、エリート層をも非常に強力な統制下に置いていることを浮き彫りにした」と、スナイダーは言う。
■シナリオ③:同盟国の離反
北朝鮮は、結局のところ主要な同盟国に体制の存続を依存している。ロシアと中国の支援があるからこそ、北朝鮮は「どうにか生き延びる」ことができていると、ヨは言う。
「外部の支援がなければ、北朝鮮は人民の食糧を確保したり、インフラ建設などの基礎的な経済上のニーズを満たしたりすることができない」と、韓国の釜山国立大学で教鞭を執るロバート・E・ケリー教授(国際関係学)は記している。
ただし、北朝鮮にとって、現在のロシアとの関係と中国との関係は大きく性格が異なる。
状況を一変させたのは、ロシアのウクライナ侵攻だ。
ウクライナ戦争をきっかけに、ロシアが北朝鮮同様に国際的な制裁の対象になって孤立し、北朝鮮がロシアにとって「貴重」な存在になったと、スナイダーは言う。
「北朝鮮とロシアの関係の変容は、この6カ月ほどの間に起きた最も大きな変化と言えるだろう」と、ヨも指摘する。
いま金は人生で初めて「真の同盟国」を手にしたと感じていると述べるのは、イギリスの駐ウクライナ大使や駐韓大使を歴任したサイモン・スミスだ。
「その結果、金が体制存続のために選べる行動の選択肢が広がっている」。その選択肢の中には、西側諸国に対して一層好戦的な態度で臨むことも含まれる。
ウクライナ戦争による国際情勢の変化は、北朝鮮が中国に全面的に依存する状態から抜け出すことを可能にした。
北朝鮮は長年、その状態を居心地悪く感じていた。
「いま(北朝鮮は)それ以前よりはるかに強い立場にある」と、スナイダーは言う。